第31話 爆発オチなんてサイテー

 「そういや、ドラゴンって見たことないな。居るんだろ、ファンタジー世界にとって常識だし。」


  ある朝、食卓での何気ない会話。ファンタジーと言えばドラゴン、ドラゴンと言えばファンタジー。そういっても過言ではないほどの有名モンスター。

 俺の疑問に誰も反論しない所を見ると、別におかしなことを言ったわけでは無いらしい。良かった、居るんだなドラゴン。


「そうだな、普通のドラゴンだけじゃない、ツカサが喜びそうなドラゴンも存在してるよ。」


「あぁ。ツカサはアレ、好きそうだよな。アタシはごめんだけどな。」


「何だよ、そんなにワクワクするやつなのかよ。」


 レイとクロネ、二人が考えていることはどうやら同じらしい。そこまでネームバリューのあるドラゴンなら、一度見てみたい。何て名前なんだろうか。


「バハムート、またの名を『天災』。それが奴の名じゃ。」


「てん……さい?」


 バハムート、名前位は聞いたことがあるゲームとかで人気の黒いドラゴン。具体的に何をするドラゴンなのか、とかは知らないけど、とにかくドラゴンの中でも別格の有名度だ。そんなのに更に恐ろし気な別名が付いてるんだが。


「バハムートは古代種でかつ超大型に分類されるマジやばモンスター。目的不明で神出鬼没、どんな魔法を使ってもその居場所は探知できないし、探知できたとしても歯が立たないモンスターだよ☆特徴は、頑強な顎から飛び出すビームっ!!これで蒸発した国や町は数知れず、絶対的な熱量に敵うものなしっ!!」


「テンション上げて言うことじゃないだろ、グシオン。」


「でもまぁ、余の全力でやっと相打ち位じゃろうから、グシオンのテンションも分からなくは無いな。」


「……え?」


 マーリンの本気がどのくらいか知らないけどそれで相打ちって、バハムート強過ぎだろ。というか、ただでさえ俺の周りがチート揃いなのに、それを超えるモンスターを出してくるのはやめて欲しい。

 今の俺は、やだ……環境、インフレし過ぎ?状態に追い込まれている。どうにかして脱出しないと。


「まぁ、安心するが良い。そうそう奴に見つかることなんて無いはず……ってひいっ!!」


「おわわわっっ!!何だこの揺れっ!!」


 マーリンが言い終わらない内に、恐ろしい揺れが失楽園パンデモニウムを襲う。テーブルが揺れ、コップから水がこぼれてしまう。


「これは……まさかっ!!」


 クロネは傍らに置いていた刀を手に取る。瞳、その瞳孔は開きかけている。

 これ、間違いなく緊急事態だよな。

 とっさに動けない俺の耳に届く庭園への扉が開く音。既にレイは外へと飛び出していた。


「おい、レイっ!!」


 慌てて追いかけて俺も外へ。外は朝だというのに、薄暗かった。そして、出てすぐ、上を見上げたまま棒立ちのレイにぶつかる。


「レイ……?」


「上だ、ツカサ。」


「上?」


 釣られて見上げる。相変わらずの曇り空……ではない。暗いのは天気が悪いわけじゃなかった。

 太陽を喰らい、空を覆いつくす巨体。明らかに異常なサイズ、例えるなら超大型。いや、それでも足りない位だ。これが──────。


「「バハムート……!!」」


 黒く煌めく鱗に年月を感じさせる翼、そして蒼い瞳はこちらを睥睨へいげいする。一睨みされただけでも動けない、これが王者の風格か……!


「グアアアアアアアア…………。」


 動けない俺達を片目にバハムートは静かに息を吐き、遥か上空へと上がっていく。そこはかとなく不味い雰囲気、それだけは伝わってくる。


「これ、不味いよな……。」


「ツカサ、しっかり捕まっていてくれ!!」


 一足早く拘束状態から逃れたレイが俺を腹の辺りから持ち上げ、駆ける。

 バハムートは、ようやくその全身を視認できる距離まで高度を上げていた。そしてそこで滞空する。ここからでも、その強靭な顎が開くのが見える。


「グラアアアアアアアアアア!!!!!!」


 轟く咆哮。


「きゃっ!!」


「っつ!!」


 ただ叫んだだけ、それだけの風圧で俺達は地に倒れ伏してしまう。確実に死へと近づいている、その実感だけがある。

 バハムートはそんな俺達の姿を見下ろし、更にその口を大きく開く。熱線ビームを撃つつもりだろう。


「なぁ、レイ。」


「なんだ、ツカサ。」


「アレには勝てない、そういう共通認識で構わないか?」


 恥ずかしい話、もうアレには勝てないと本能が告げている。いくらここがファンタジー世界で、魔法が使える世界だったとしても、アレと俺達じゃ規模スケールが違い過ぎる。

 諦めムードの俺とは反対に、レイは立ち上がり、その瞳にはまだ光が宿っていた。


「ツカサ、私は勇者の末裔だ。アレをここで逃せば、更に各地へと被害を及ぼすことになる。」


 口調は冷静で、それでいて、その裏に決意が込められた熱さを感じる。


「私達で勝てない、それは承知の上だ。でも、だからといって何もせず逃げる、それだけはしない。」


 逃げるのも勇気、無謀は蛮勇、なんて言うのは無粋だな。

 レイからはなぜか可能性を感じる。勇者の才能、だろうか。不思議と力を貸したくなる。なら、俺の言う言葉は一つ。


「だから、私に力を貸してくれないか?」


「もちろん、一泡吹かせてやろうぜ勇者様。」


 レイの言葉に、膝についた砂を払いながら立ち上がる。なんか、久しぶりだなこういうの。それは、レイも同じだったらしい。目が合ったレイは誇らしげに微笑んだ。


「「バハムート、ぶっ飛ばすっ!!」」


 払拭した諦めムード、そこに響くは最強の怒号。バハムートの口から禍々しい熱線が撃ち出される。


「グルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」


 その日、失楽園パンデモニウムはバハムートの熱線に呑まれ、爆散した。


 


 







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る