第29話 埋めていくのはゆっくりでいい
翌朝、俺はマーリンの部屋の前にいた。扉の開く音、それを聞いて俺は例の態勢に入る。
「俺に戦い方を教えてくださいっ、お願いしますっ!!!!!!」
膝は地面に付き、頭を勢いよくこすりつける。
「朝っぱらからうるさ過ぎなんじゃが……。」
顔を上げると、嫌そうな顔をするマーリン。寝ぐせは燃え盛る炎の様に荒れ狂っている。やっぱり寝起きに直撃はまずかったか。
どうやら俺の誠心誠意を込めた土下座は全く通用していないらしい。もしかして異世界の土下座は謝罪の最高峰ではないのかもしれない。なら、まだ手はある。
俺のそんな浅はかな思考を見透かしたかのように、いや実際見透かした声がする。
「グシオンちゃん、スライディング土下座とか焼き土下座とか詳しく知らないけどさ、止めといた方が良いと思うよー?」
「ちょっ、グシオン!!人の心読むの止めろよ。」
指輪を軽く叩くと、グシオンはだんまりを決め込み始めた。
「何じゃそれ、そんな芸当は要らぬ。其方をそうさせる想い、それを余に聞かせるが良い。」
「それは……。」
昨日のレイのスキルを見て、いざという時、俺が何の役にも立たないんじゃないか、そんな不安に襲われた、なんて恥ずかしくて言えない。
俺がだんまりを決め込む中、頭の中に直接声が響く。
(どしたん?グシオンちゃん、代わりに言ったげようか?)
(いいよ、俺が言うし。っていうか、恥ずいから心の中読まないでくれって。)
(あっはは、グシオンちゃん止めても見えるもの、見えちゃうからさ。)
(一心同体で頑張れってか?)
(そうそう、そういうこと~。)
あらぬ方向に目を向けながら会話する俺の目に不満げなマーリンの顔が映る。
(あ、やべ。完全に忘れてた。)
(それじゃザッキー、バイバイ~。)
(あ、お前ずるいぞっ。)
それきりグシオンからの音沙汰は全く無くなってしまった。
残された俺は不機嫌なマーリンと二人、取り残される。
「其方ら、余を放っておいて何だか楽しそうじゃのう?」
「悪い……。改めて言うわ。」
「うむ。」
「あのさ、俺……。」
ちょっとした理由で何か恥ずかしい。ダンジョンの中で二人で戦った時みたいに、俺も役に立てるかもしれない。でも、それはきっとずっとじゃない。その時が来るまでに出来ることはしておきたい。
「強くなりたい。」
「ほう。」
それを聞いたマーリンの口元が僅かに緩み、上がる。
「それは、俺もみんなの役に立ちたい、誰かの為に頑張りたいから。だから、教えてくれないか……?」
「うむ。良いぞ。ならば、余が提示する方法は一つだけじゃ。」
「……。」
思わず息を呑む。マーリンはそんな俺に向けて、人差し指を立てて示す。
「それは、余が良いと言うまで食用マンドラゴラの研究を続けることじゃ。」
「それって今までと同じじゃ……。」
「そうだが、それが大事なのじゃ。一言に戦うといっても、其方が余やレイ、クロネに武力や魔力で勝ることは無い。じゃが、其方にはマンドラゴラがある。」
「おう……。」
マンドラゴラがあって何かの役に立つのだろうか。それが分からない。
「戦うのは何の為か、それらを見極められる様になった時、また余に頼むが良い。」
「あぁ、分かった。」
何となくもどかしい想いを抱えながら俺は頷く。
マーリンもそんな俺を見かねてか、更に言葉を付け加える。
「戦い方は一つではない、一時の強さより、その先に残るものを考えよ。」
「その先に……残るもの……。」
いずれ分かるんだろうか、今はただその助言を受け止めて、胸に止めておくことしか出来ない。
苦悩する俺と反対に、マーリンは悪戯っぽい笑みを浮べ始める。
「それと、じゃ。」
どうやら俺の本音はバレバレらしい。
「次は素直に『レイの力になりたい』と言うが良いぞ。」
「別にそんなんじゃない……。」
こんな事を言ったら逆に認めてるようなものだ。それに、顔も火照ってしまっている気がする。そして、トドメの一撃。
「心拍数上昇中☆ ザッキー、マジ嘘下手じゃん〜。」
「うっさい。」
指輪に一喝しながらも、その語尾に怒りは無く、どこか晴れやかな気持ちになっていた。
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