第28話 足りない物はこの胸に

 場所は変わって庭園。機嫌の回復した俺を含めた四人はスキルを試す為に外まで出てきていた。

 庭で立つのはレイ、そして彼女に対峙するマーリン。俺とクロネは三角座りで見学中だ。


「ここまで来たのは良いけど、試すのはレイだけだろ?」


「いや、クロネもあの刀でバッサリいくスキル持ってるじゃん。」


「あれはアタシのスキルじゃねぇよ。」


「じゃあ、誰のなんだよ。」


「それは……」


「其方ら、こちらに集中するがよい。」


 隣り合って話し合う俺達、その会話はマーリンの声で遮られる。


「そうだぞ、二人とも。私が勇者の末裔だという証拠、見せてあげよう。」


「ノリノリだな、おい。」


 珍しくレイが乗り気なのは実力を発揮できるからだろう。確かに今までレイの筋力以外の実力が発揮されたのは見たことが無い。


「まぁ、頑張れよレイ。」


「ふふっ、任せろツカサ。」


 軽い声援にガッツポーズを見せるレイ。その様子を見たクロネが笑い声をこぼす。


「仲、いいんだなお前ら。」


「それなりに、な。」


 それだけ言って、俺は正面のレイへと目を向ける。

 なんか、今のレイ、めちゃくちゃ勇者っぽいな。見惚れるカッコよさがある。


「よし、レイ。来るが良い。」


「行くぞ、マーリン!!」


 レイは鞘から剣を抜き、構える。そして、一言。


「光よ、ここに。」


 小さな光の玉、それがレイの周りへ集まり始め、剣へと吸い込まれていく。剣は輝きを増し、やがて白く発光する。


「集い、我が刃となれ。」


 吹き抜ける風に黄金の髪が揺れ、その碧い瞳に光が宿る。


光の剣クラウ・ソラス!!」


 レイは剣を前へと投げ、その柄へと拳を打ち込んだ。撃ちだされた剣は一筋の光となり、マーリンへと迫る。


「ふっ、良い。じゃが、この程度では余は満足せん。」


 受け止めれば、上半身とさよなら不可避の一撃。それを前にしてなお、マーリンは何もする気配を見せない。

 ったく、余裕が過ぎるだろ、アイツ。


「止めよ、オロバス。」


 マーリンの声の直後、剣が徐々に動きを止め、マーリンの身体に触れた辺りで完全に静止した。

 その瞬間、剣から光が失われていく。理由はもちろんアレだ。

 

「レベルが……レベルが下がっていく……。うぅ、私のスキルがぁ……。」


 剣がマーリンに触れたことでスキル『不運』が発動し、急速にレベルが下がり、スキルも奪われていく。

 悲痛な叫びをあげるレイ。さっきのカッコよさはどこへ行ってしまったのか。


「でもま、レイらしいか。」


 レイの完璧過ぎない所に、どこか安心してしまっている自分がいる。

 そんな安堵と憂鬱さを含んだ独り言だった。

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