第27話 マンドラゴラはスキルに入りますか?
「おい、そろそろ起きろよ。」
「ん……あぁ、クロネか。」
まどろむ目をこすりながら身体を起こすと、俺が寝ているベッドの脇にクロネが座っていた。
「今って、」
「今は昼、マーリンはレイに連れてかれて代わりにアタシがここに来た。はっ、正座させられてるマーリンの顔、お前にも見せてやりたかったな。」
その様子を思い出したのか、クロネは笑う。
あのマーリンが正座する、そんな重大なイベントに立ち会えなかったのは残念だ。どれだけ凄い剣幕で怒ったんだよ、レイ。
そんな俺の想像は扉が開いた音で中断させられる。
「笑うなら助け舟くらい出してほしかったんじゃが……。」
「ツカサ、無事で良かった!」
「レイ、俺は大丈夫……ははっ、マーリン、何だよそれ。」
俺の傍に駆け寄るレイと、後ろからとぼとぼ歩いてくるマーリン。その首からは『余は危険な方法を事後承諾で行わせました』と書かれた紙が紐でぶら下げられていた。それ、怒られた猫が下げてるやつだろ。
「ふっ、この小娘の其方が倒れてからの動揺っぷりと言ったら、むぐっ……むぅ……。」
「余計なことは言わなくていいから。」
反省した素振りも束の間、すぐに余計なことを口にするマーリン。その首はいつの間にか背後に移動したレイによって締め落とされる。
すぐ横で繰り広げられるプロレスを意に介さず、クロネは俺の方を向く。
「で、結局ステータスはどうなったんだよ。」
「え、それは確かグシオンが。」
「グシオン?」
クロネが聞きなれない単語に首を傾げたその時、部屋に軽快な音楽が鳴り響く。発信源は俺の左手、それも指輪から。つまり、そういうことだろう。
皆の視線が集まる中、指輪は勝手に喋り始めた。
「ハロー、皆様方っ。万能ナビゲーターこと、電脳系悪魔グシオンちゃんですっ!!よろしくね☆」
「……相変わらずじゃな、グシオン。」
「ナビゲーター?」
「つまり、変な奴がまた増えたってことだよな。」
疑問を返したのはレイだけ。後の二人は既に呆れ顔だ。もちろん、俺もだが。
「声だけだと一層怪しい奴だな、グシオン。」
まぁ、あの姿で出てこられても困るんだけどな。あのテンションで現実世界で動かれたら、俺の身も心ももつ気がしない。
「いやいやザッキー、グシオンちゃんのコミュ力舐めてると痛い目見るよ?友達百人とか一瞬で作っちゃうから。」
「ここにいる四人で全員なんだけどな。ここ空の上だし。」
「あっはは。ネタにマジレス、よくないぞー。」
「グシオン、おふざけはその辺りで止めておけ。今は仕事の方を優先せよ。」
「おけ、やっちゃうよー。」
マスターからの命令を受け、グシオンはすぐに切り替える。
自由奔放そうには見えるが、ちゃんと命令を聞いて行動できるタイプらしい。
「それでは、ザッキーのステータスオープンっ!!」
威勢のいい声の後、指輪からホログラムが映し出される。A4紙位の大きさになった俺のステータスを覗き込む。最初に目についたのはレベル。
「「52!?」」
レイと声がハモる。そんな俺達には見向きもせず、後の二人は他の項目の方に集中している。
「わ、私よりも高い……。くっ、焼きマンドラゴラ屋に負けた……。」
「そりゃ、俺にはレイみたいに呪いが無かったからだろ。ステータス自体はレイの方が上だし、元気出せよ。」
力なく悔しがるレイを励ましながら、俺は次へと気持ちを移していた。それはもちろん、スキル。これだけレベルが上がればスキルも格段に増えるはず。ははっ、俺の輝かしい異世界人生はこれからだ。そんな思いを胸に俺はクロネが眺めているスキル欄へと目を向ける。
「【女神の加護】、【マンドラゴラ:調理】、【マンドラゴラ:育成】ってあれ?俺のスキル変わってなくないか?」
「スキルはそのジョブで決まる。お前の場合は焼きマンドラゴラ屋、だろ。だから覚えられるスキルはマンドラゴラ系だけになる。」
「淡々と絶望的な事実を突きつけるなよ、クロネ。」
薄々分かってた事実を言葉にして突きつけられると中々くるものがある。
「で、でも、加護が付いてるのは凄いことだと思うけどな。」
俺が落ち込んでいる様に見えたのか、励ましの言葉をかけてくれるクロネ。
確かに女神の加護って名が付くくらいだ、高性能なスキルの可能性はある。
「……なぁ、グシオン。」
「はいはーい。」
「この【女神の加護】の詳細って見られるか?」
「できるけど、いいの?」
「え?いいけど、急に落ち着くなよ、怖いだろ。」
どうせ聞かないと俺の気が済まないんだ、さっさとやっちゃってくれ、なんて軽口を声に出せないレベルには俺も分かってる男だ。グシオン程じゃないが、俺にも未来が見えた気がする。
俺の了承を得ると、ホログラムが更に展開し、スキルの横にその詳細が表示される。
「【女神の加護】、効果は…………なし。」
いや分かってたから。落ち込んでるとか、そんなことないから。あぁ、でもさようなら、俺の輝かしい異世界生活。
これから一生マンドラゴラを背負って生きないといけない悲しみよりも、この現状を生み出した元凶への怒りの方が込み上げてきた。
「あのクソ女神ッッッッ!!!!!!」
怒りを込めた俺の拳はホログラムを突き抜け、やがて腕と共にだらりと下がった。そのまま俺の全身からも力が抜ける。
「よろしく、俺の異世界マンドラゴラ生活……。」
そう言い残し、俺は燃え尽きた。
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