第24話  パーティーというよりむしろ【後編】

 気を取り直して再開した昼食の席。各々が目の前にあるマンドラゴラを口に運ぶ。果物や野菜の類は元々焼くようなものじゃないのが多い。だから、並んでいるものの大体は焼いていないものだ。俺の目の前にあるメロン味のやつだってそう。

 一口分切り分けてから口に運ぶ。口の中に広がる芳醇な土の香り。中途半端な甘みと瑞々しさが本物のメロンとの乖離をよく表している。


「やっぱりメロンには程遠いな。」


「「メロン?」」


 隣のレイと向かいのクロネが不思議そうな声を出す。

 しまった、この世界ではメロンが無いのか。いや、マーリンも結局リンゴのことど忘れしてただけだったし、メロンもあるんじゃないのか。


「ツカサ、レイはメロンが分からぬのではない。言ったであろう、この世界では名前は一緒でも色が違うと。」


 困惑が顔に出ていたのか、マーリンが説明してくれる。


「あー、そうか。リンゴも青色だったし、メロンも赤色とかなのか?」


「メロンは白色だぞ、ツカサ。」


 疑問が解決されたからか、レイが食い気味に答える。


「その……。」


 メロン問題が解決しようとしたその時、クロネがおずおずと手を上げる。そして皆が見守る中、口を開く。


「メロンって何なんだ……?」


「「「え?」」」


 今この時から食卓は白いメロンを知る派、黄緑色のメロンを知る派、そもそもメロンを知らない派に分かれた。……混沌は極めてないが。


「その、何か悪いな。先に劣化版食べさせて。」


 地上に戻ったら、本物を一緒に食べるとしよう。まぁ、まずはお金がいるけどな。


「変に気を使われる方が迷惑だっつうの。」


 何でもない、とでもいう素振りを見せるクロネ。彼女の疑問は既に次へと移っているらしい。


「メロンの話はもういい。それよりもなぁ、アタシ達は何の集まりなんだ?」


「何ってパーティーだろ?」


 レイが言い出したことだけど、俺はパーティーのつもりだったんだけど。もしかして違ったのか。


「パーティーは臨時のメンバーで組む事が多い集まりじゃ。固定のメンバーの場合は魔王討伐を目的としとる、とかじゃな。余達、別に魔王討伐を目的としとらんじゃろ?」


「それはそうだな。」


「アタシもそう思ってるぜ。」


「え!?」


 マーリンの発言に驚いたのはレイだけ。そしてマーリンに賛同した俺を信じられない、といった目つきで見てくる。

 もしかしてコイツ、まだ魔王討伐を目標にしてたのか。やめろ、そんな裏切り者を見るような目つきで睨むんじゃない。


「じゃあ、俺達のくくりは何になるんだよ。」


「ギルド、じゃな。」


「ギルド……。」


 残念ながらゲームとかでよくあるやつ、それ以外の知識がない。

 俺の頭にはてなマークが浮かんでいるのでも見えたのか、クロネがマーリンに続いて話し出す。


「同じ志を持った仲間が集まるのがギルド。正式な活動をするならギルド管理商会の方に書類とか出さなきゃなんないけど、出してない違法ギルドも多いな。アタシたちは物理的に難しそうだし、地上に着いたときにでも出せばいいんじゃないか?」


「詳しいんだな。」


 昔、ギルドにでも入ってたのか? なんて聞けたらいいんだろうけど、人の過去に無理やり踏み込むものじゃない。


「まぁな。アタシだって、ちゃんと知ってることあるってことだな。」


「助かったよ、クロネ。」


 ギルドの話は知らなかったのか、レイが優しく微笑みかける。横から見ているだけでもまぶしい笑顔を正面から受け止め切れる筈も無く。


「ったく、そういうのは柄じゃないんだよ……」


 そう言いながらクロネは口元を腕で隠し、視線を逸らした。

 暖かな雰囲気に包まれる部屋、その中で俺はふと思いついた疑問を口に出す。


「ギルドって、活動名とかあるんだよな? 例えば【マンドラドラ団】みたいなやつ。」


「うむ、確かに登録するはずじゃな。まぁ……うむ。」


 何かを言いかけて止めるマーリン。いたずらっぽく笑う口元から鋭い歯が覗く。

 これは何か悪いことを考えているに違いない。でも、それが何なのかが分からない。


「何だよ。言いかけたなら最後まで言えよな。」


「ふっ。良いギルド名を閃いた故、思わず笑ってしまったのじゃ、許せ。」


「なら、言えばいいだろ。」


 放送禁止用語の類じゃなけりゃ大体はギルド名にできるだろ、多分。


「それは、のぉ?」


 言い淀むマーリンはその視線をレイとクロネへと向ける。


「ふふっ。」


「ははっ。」


 三人は通じ合っているかのように視線を交わし、短く声に出して笑う。

 どうやら今度は俺だけ蚊帳の外らしい。このもどかしい気持ちに早くケリをつけたい、答えを教えてくれ。


「……で、そろそろ教えてくれてもいいだろ、ギルド名。」


「ホントにとぼけておるわけでは無いのか……。うむ、ではしかと聞くが良い。」


「はい。」


「ギルド名は……。」


 そこでマーリンは他の二人ともう一度視線を交わし、小さな声で『せーのっ』っと掛け声を掛ける。


「「「【焼きマンドラゴラ屋】じゃ!」だ!」だろ!」


「え…………ええええええええええええ!!!!!!!!」


 自信満々に答えた三人、ここまで息があったのは初めてじゃないだろうか。

 それよりも問題なのはギルド名。あまりにダサすぎる、ギルド管理商会受付の困惑顔が目に浮かぶ。


「マジ?」


「まじ、だとも。私達にとってマンドラゴラはかけがえのない要素じゃないか。」


「逆に何があるんじゃよ。」


「三食全部マンドラゴラなの、ここだけだろ。」


 三人からの返答にぐうの音も出ない。確かに俺と、俺達とマンドラゴラは切っても切れない関係にある。彼、いや彼女、ともかくマンドラゴラ達への感謝は忘れない方が良さそうだ。


「ま、こういうのも俺達らしいか。」


 変にかしこまった名前より全然いいかもしれない。構成員がどこかしら残念な奴らばっかりな訳だし。

 ふっきれた俺は水の入ったコップを掲げる。


「それじゃ、ギルド結成祝い始めるぞ!!」


「「「おー!!!!!!」」」


 小気味よく響くコップ同士の共鳴。これでようやく四人、息が合った。

 こうして、新設非公認ギルド【焼きマンドラゴラ屋】の活動が始まった。

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