第25話 不思議な魔法で叶えてくれる

 ギルド【焼きマンドラゴラ屋】を結成したものの、特にこれと言ってギルドとしてやることもなく、マンドラゴラ生成の研究を毎日続けている。後はレイの日課に付き合うくらいだ。

 眩しい日差しのさす朝、瑞々しく輝く緑に囲まれながら、レイは素振りを繰り返していた。今で五セット目だろうか、よく疲れないもんだ。


「九十八、九十九、百。よし、休憩。」


「ほい、水。」


「ありがとうツカサ。」


 渡したコップの水を口に運ぶレイ。その喉は一定のリズムを刻みながら音を立てる。

 あがった息に紅潮した頬、うなじを滴る汗。運動の直後だからこそ感じる色っぽさに思わず目を奪われる。


「ん?どうしたんだ、そんなにじっと見て。」


「え、あー、いや、さ。レイのレベルってどこまで上がったんだろうって思ってさ。」


 邪な目線で見たことを誤魔化す為に話を変える。とっさにしては中々の話題転換だった、そう思う。

 

「そういえば、まだ見ていなかったな。ええと、確かここに…………!?」


 懐から冒険者カードを取り出したレイはそこで硬直する。大体その理由は分かる。


「レベル、滅茶苦茶上がってたんだろ?」


「あ、あぁ!!レベルが40にもなってる!!」


「お、おう。」


 興奮した様子のレイに詰め寄られ、気圧された俺は後ずさる。

 相変わらず嬉しくなると人との物理的な距離感を無視してしまう癖は治っていないらしい。


「毎日マンドラゴラを食べていたからだな。」


「良いような悪いような成果だな……。」


 料理を味わうことを犠牲にして得る力、強くなってなきゃ困るくらいの代償だな。

 デメリットを見がちな俺と反対に、レイはメリットの方へと目を向けていた。


「良いに決まっているだろう。レベルが上がれば、多彩なスキルが使えるようになるんだ。戦い方にも工夫ができるようになる。」


「そっか。じゃ、俺も……って持ってなかったわ、冒険者カード。」


 冒険者ギルドに行かないと貰えないらしいけど、わざわざここから降りて貰いに行くほどのものでもないしな。

 軽く肩を落とした俺のすぐ後ろから聞きなれた声が囁く。

 

「無いなら、作ってしまえばよい。」


「うわっ!?急に背後に立つなよ、マーリン。」


 振り向くとそこにはのじゃロリ系ヴァンパイア。彼女は赤い舌をちらつかせながらおどけて見せる。


「ふっ、最初からずっといたがの。と、まぁ冗談はさておき、其方はステータスが見たいのじゃろう?」


「そうだな。どうせ内容は分かってるんだけど、見てみたい。ファンタジーっぽいし!」


 俺の返事を聞いてマーリンは満足気に微笑むと、その手を俺の胸へと向ける。

 かざされた掌から魔法陣が展開していく。

 二重の円に沿うように描かれていく文字。俺の方からは読みにくいので、何が描かれたのかはパス。そして、円状に並んだ文字列の内側にもう一つの円が描かれる。最後に、その円の中に複雑な形のトランペットの様な模様が刻まれ、魔法陣は完成した。


「そなた、指輪はまだ着けておるじゃろ?」


「え?ここにあるけど。」


 俺は左手につけた指輪を見せる。


「それなら死にはせんじゃろ。」


 それだけ確認すると、不穏なことを言い残してマーリンは詠唱を開始する。


「グシオンよ、其方の知恵、我が眷属に貸したまえ────!!」


 魔法陣が怪しく光り、黒い魔力をまとい、展開する。


「おい、これって一体……うっ。」


「ツカサッ!?」


 魔法陣の展開と共に身体に流れ込む何か。その気味の悪い奔流に身体を書き換えられていくような感覚。

 レイの緊迫した声だけが耳に届く。マーリンは……相変わらず堂々としてるな。

 

「マーリン、いっつも手段が強行突破なの、悪い癖だぞ……」


 それだけ言って、俺は意識を失った。


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