第22話 マンドラゴラは進化する

 巨大マンドラゴラを片付けた次の日。俺とマーリンはまたしても庭園に出てきていた。

 残りの二人、レイとクロネはというと。


「クロネ、さぁ三回戦だ!!」


「おいツカサ、そろそろこいつを止めてくれ。もう飽きたんだよ、アタシは。」


 いつの間に仲良くなったのか、部屋でカードゲームをしていたので、そのまま放置してきた。後で俺も仲間に入れてもらうとしよう。

 回想にふけっていた俺はマーリンに肩を叩かれた事で現実へと戻ってくる。


「ツカサ、何ぼーっとしておるのじゃ。ほれ、余が教えた通りにやってみよ。」


「ん?あー、なんだっけ。」


 身振りをつけた大きなため息をつくと、マーリンはこちらに向けて指を指す。


「はぁ。これで最後じゃぞ。昨日の巨大マンドラゴラ、あれは指輪からの干渉が強過ぎたのと、其方のイメージ不足じゃ。」


「イメージ不足?」


「そうじゃ。其方の場合、能力の内容が曖昧な故、形や味、大きさ等がイメージ頼りになっておる。つまり、イメージ次第ではどんなマンドラゴラでも作り出すことが出来るであろう。」


「もしかして……美味しいマンドラゴラも?」


「もちろん。」


「おお!!」


 やる気が漲ってきた。クロネ以外美味しいとは言わないマンドラゴラが遂に生まれ変わる時がきたんだ。


「戦闘用のマンドラゴラ生成もやっておきたいが、不味い飯を三食食べさせられるのはもう嫌じゃからな。先に食用マンドラゴラを作るぞ。」


「そうこなくっちゃな。」


 しばらく戦闘とか無さそうだし、俺以外の三人が戦えるならそれでいい。焼きマンドラゴラ屋が前線に出る世界線は無い。


「……聞いてなかったというのに、よく言うの。」


「あっはは、ごめんごめん。で、どうすりゃいいんだよ?」


「とりあえず、種を作るところまでやってみせよ。」


「おっけ。」


 手の平に集中し、球根を生成する。

 マーリンはそれを確認すると、再び口を開く。


「前はここで埋めたが、今回はここから条件を課していく。」


「条件?」


「そうじゃな……クッキーに例えるなら、今は生地の状態。ここから味付けやら、型抜きやらを経て完成となる。条件は後者じゃな。まぁ、握りしめて好きな味をイメージしてみるがよい。」


「なるほど……?」


 つまり、ここからのイメージ次第で何にでもなる、ってことだろうか。

 好きな味、最初はあんまり冒険しない方がいいよな。となると、野菜とか果物系。その中で好きな味は……。


「リンゴになれ……!」


 甘酸っぱいリンゴの味を想像しながら種を力一杯握りしめる。

 微かに温かくなる手の平。開いてみると、そこには赤く、リンゴの形をした球根があった。


「そうじゃないだろ……。」


 何で球根からリンゴの形してるんだよ。絶対リンゴの味します、みたいな見た目だけど怪しすぎる。


「まぁ、まだ分からんじゃろ。」


「それもそうだよな。じゃ、埋めるか。」


「いや、その必要は無い。今回は練習、上手くなる方が優先じゃからな。ほれ、貸してみよ。」


 しゃがみこもうとした俺をマーリンが制する。何がしたいのか分からないまま、その手に球根を乗せる。

 マーリンは球根の乗せられた手を握ると、天へとかざし、詠唱する。


「オロバス、いつものじゃ。」


 握りしめた右手小指の指輪が赤黒く光る。言葉の軽さとは裏腹に、虚空から黒いオーラを纏った手が伸びてくる。その手はマーリンの手を両手でそっと包み込むと、すぐに姿を消した。

 残されたマーリンの手の平には何かが乗っていた。それはもちろん──


「出来たぞ、これが新生マンドラゴラじゃ。」


 マーリンの手に乗っていたのは普通よりひと回り大きいサイズのリンゴで、その表面にはやはり人の顔の模様がついている。可愛げのあるフォルムと顔の不気味さのミスマッチが独特な雰囲気を醸し出している。


「おぉ……!!ってかそれより、さっき召喚してたのって何なんだよ。マンドラゴラよりそっちの方が気になってんだけど。」

 

「むぅ、余のことはもうよいっ。とりあえず、食べてみるがよい。ほれ、ほれ。」


「はいはい、分かってるって。じゃ、いただきます。」


 新生マンドラゴラを受け取り、思いきりかじりつく。


「どうじゃ?」


「……微妙。」


 妙に柔らかい感触に口の中に広がる微妙な甘み。何と表現するべきだろうか、この微妙な味を。どうあがいてもリンゴの下位互換、これなら普通のマンドラゴラの方がマシかもしれない。


「ま、食べられるならよいじゃろ。味の方はこれから練習を重ねていけばよいしな。」


「よし。リンゴの上位互換になるまでやるか!」


 リンゴの上位互換を作れたら、地上でも焼きマンドラゴラ屋が生き残れる道を作れる。

 意気込む俺を見つつ、首を傾げるマーリン。


「ずっと気になっておったんじゃが、リンゴってなんのことじゃ?」


「あー、それもやっぱり伝わらないか。ま、それも練習しつつ教えるよ。」


「よい。余もこの世界のことを教えてやろう。」


 そうして俺とマーリンのマンドラゴラ生成研究が幕を開けた。

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