第21話 キラズキル
「これ、どうすっかな……?」
「お前が何とかしろよ、焼きマンドラゴラ屋?なんだろ。」
左後ろから声が届く。慌てて飛び退くとそこにはペストマスクを頭に乗せた不審者。
「うわっ、急に後ろに立つなよ!」
「癖なんだよ、悪いか?」
不審者もといクロネはこちらを睨みつける。何かクロネの殺気は冗談に感じないんだよな……。
「へいへい、俺が悪かったよ。」
「ふん。それで、どうするんだこれ。」
俺達の目の前にそびえ立つマンドラゴラは地表から見えている部分だけで戸建てくらいの大きさがある。
「これは流石に抜けないし、このまま置いとくと……」
「置いとくとどうなるんだよ?」
「知らないのか。マンドラゴラは土壌の魔力を吸う事で生きながらえてるんだ。だからこのサイズを放置すると、他の植物が枯れちまう。」
「なるほど。意外に物知りなんだなお前。」
「まぁな。」
まぁ、俺も今朝マーリンに言われるまで知らなかったけどな。せっかくだ、博識面をさせてもらうぜ。
「で?どうするんだよ、結局。」
「任せた。」
「は?」
「俺は戦闘手段を持ってない。魔法も屋台でしか使えないし、剣も振れない、正真正銘役立たずだ。だから任せた、クロネ。」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
叫んで当然、至極真っ当な声が辺りに響き渡る。不味いな、クロネに丸投げ作戦は失敗してしまうかもしれない。
「お前、何しに来……」
「ァァァァァァァアアァァァァ!!」
クロネの問いを遮るようにマンドラゴラは金切り声を上げる。そして地中から手を伸ばすと、身体を地面から引き抜いた。
「嘘だろ、おい。」
抜いてからの自立歩行はあっても抜く前に自立歩行するのは無かっただろ。
「アアアアッ!!」
眼球の無い空洞2つの瞳は俺達二人を捉え、その身体から大量の根が飛び出す。
「……ったく、アタシの後ろから離れるなよ。」
そう言いながら、クロネはペストマスクを顔に付ける。
「おっけ。」
「それと、気をしっかり持てよ。」
「え?」
俺を心配する様に付け加えられた一言。その意味を図りかねた俺は曖昧な反応しか返せなかった。
「来るぞ。」
「アアアアッ!!!!」
周りに漂っていた根が一斉にこちらへ襲いかかってくる。
それを見すえつつ、クロネは腰に携えた日本刀に手をかける。そして、一言。
「抜刀」
刹那、時が止まる。いや、止まった訳じゃない。俺とマンドラゴラの動きが限りなくスローモーションになっている。そして、気付いたことはもう一つ。俺とマンドラゴラにクロネの姿は見えていない。俺もマンドラゴラもその視界からクロネの姿は消え失せている。
ゆっくりと心臓が脈打つのが聞こえてくる。それが徐々に速まっていく。そんな俺の耳に再びクロネの声が届く。
「
聞こえたその声。声と共にスローモーション化が解除されたと思った瞬間、マンドラゴラが横に一刀両断された。
マンドラゴラの目の前には刀に手をかけたままのクロネ。その親指は鍔にかかったままで抜いた気配はない。
「終わったぞ、ツカサ。」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……。助かったよ、クロネ。」
スローモーション化から解放され、呼吸のタイミングが上手く行かない。
「ふん、さっさと帰るぞ。」
褒め言葉に顔をそむけると、クロネは元来た道を戻り始める。マスクを取らない所を見ると恥ずかしがっているんだろうか。
「それと、」
「ん?」
クロネは振り向いてマスクを取った。その目はいつに無く優し気だ。
「アタシと一緒に居ても死ななかったんだ、お前も結構強いんじゃねぇの……知らないけど!!」
それだけ言ってクロネはマスクを付けた。謎の服装、さっきの戦い方といい、彼女のことは正直言って何も分からない。でもまぁ、いい子だよな。
「ありがと。」
これからクロネの事を知っていこう、そんな想いを胸に俺もクロネの後を追った。
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