第20話 ずっとスタンバってました


「ア……アア……アア……アアアアア」


 叫び声を上げる巨大なマンドラゴラ。その巨体を見上げる他無い俺は力無げに呟いた。


「どうしてこうなった……」


 いや、原因は分かってる。俺の指にはまった赤い指輪。俺もつい今朝まで忘れていた存在。

 俺はぼんやりと今朝のことを思い出していた。


         ◇


 クロネの登場から数日経った朝。食卓で眠気に負けそうになっていると、レイに話しかけられた。


「ツカサ、その指に嵌めているのは何なんだ?」


「ん?」


「その、もしかして……それは……指輪…………じゃないか?」


 珍しくしおらしいレイ。この世界にも指輪の風習はあるんだろうか。


「ん……指輪?あ、あぁこれマーリンに貰ったんだよ。」


「マーリンに!?……マーリンにその気があったなんて……うぅ。」


「何だよ、はっきり言えよ。」


「う、うるさいぞ。いつの間にか婚礼の約束を交わしている男に言われたくはない!!」


「は?婚礼……?」


 もしかして、いやもしかしなくてもプロポーズ的な何かだったのか、あれ。


「ひ、左手薬指に指輪を嵌めるのは、婚礼の約束をする時だけだ。知らなかったのか?」


「知らない訳じゃないんだけどな……」


 やっぱり婚礼の約束だったか。でも、左手薬指に嵌めたのは俺だった。なら、婚礼の約束にはならない。さて、どうやって誤解を解くべきか。


「その辺にしておくがよい。」


 手をこまねく俺にマーリンから助けの声がかかる。


「マーリン、指輪の説明、レイにしてくれるか?」


「よい、このキョドり小娘の誤解は其方が帰るまでに解いておく。」


「帰る……?俺、ここにいるけど。」


「いや、其方にはやることがある。この間植えたマンドラゴラの収穫じゃ。」


「あー、完全に忘れてた。でも、それって今すぐじゃ無くても良くないか?」


「それがそうもいかなくての。とりあえず、クロネと様子を見てくるが良い。」


「そうか……?なら、行ってくるわ。クロネは、どこにいるんだ?」


 全く要領を得ないまま俺は周囲を見渡すが、クロネの気配は無い。


「其方に伝えておきたいことがあっての。クロネには先に行ってもらったのじゃ。」


「それは?」


「今からあやつと其方を二人きりにする。そこであの小娘が妙な動きを見せれば、余に知らせよ。」


「信用できるか判断したい、ってことだよな。」


「物分かりが良くて助かるの。」


 見た目の幼げな可愛らしさとかけ離れた中身の思慮深さ、やはりマーリンは只者ではない。


「んじゃ、行ってくる。」


 そうして俺は気楽に手を振りつつ、庭園へと向かった。

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