第18話 四人目、彼女の名は
「うっ……。」
体の節々の痛みを感じつつもアタシは上体を起こした。どうやら長い間眠ってしまっていたらしい。油断のし過ぎだな、まったく。
「で、ここは一体……?」
ダンジョン最深部の面影は無く、何やら豪華な室内、それもベッドの上に居た。見たところ手錠もされて無いし、捕まってるわけでもなさそうだけど。
「起きたかの?」
「……!!」
気配を消していたのか、すぐ傍らにいた少女の存在に気づいていなかった。赤く染まった髪に黒いドレスを着た子、アタシの認識を搔い潜る気配遮断能力からして只者じゃない。
「おーい、ツカサ、レイ。マンドラゴラ娘が起きたぞ!」
「マン、今何て……」
聞き間違いじゃなきゃ、マンドラゴラ娘とか言ってなかったか。意味が分かんないんだけど。
困惑するアタシを放置したまま、少女は閉じられたドアの方へと呼びかける。すると、少女の声に続いてツカサとレイと呼ばれた男女が部屋に入ってくる。
「その呼び方は失礼かもって言っただろ、マーリン。」
「まぁまぁ、ツカサ。彼女が元気そうで何よりじゃないか。」
ツカサと呼ばれた男は平凡な見た目だが、神聖な魔力に包まれている。恐らくは加護の類でも受けてるんだろう。
レイと呼ばれた女は美形。ただ、どこかで見たことのある顔。それに何か高度な呪いの類を受けているのか、黒い魔力に纏わりつかれている。
「む。念の為、余の後ろに下がっておれ。」
「いいよ、大丈夫だから。」
「むう、ツカサが良いなら構わぬが。」
ツカサはマーリンと呼ばれた少女を退けると、アタシの前に立った。いよいよ、この接点がよく分からないトリオの目的が明かされる時が来た。
「これだけは聞いときたいんだけどさ。」
「何。」
ぎこちない笑みを見せながら、恐る恐る尋ねてくるツカサ。圧倒的優位の状態で高圧的に出てこない所を見ると、アタシにとって不利な状況ではないらしい。
何を聞いてくるのか、こいつらを生かすも殺すもそれを聞いてからの判断でも遅くない。さぁ、言え!!
「名前。」
「え?」
開いた口が塞がらない。思わぬ質問に思考が停止する。
「名前、君の名前。」
「は?」
こいつ、正気か? ……いや、この妙なトリオだからって勘ぐりすぎた。只の善人集団かもしれない、こいつら。まぁ、警戒は崩さないようにしないと、だけどな。
単純な質問には長すぎる沈黙に耐え切れなかったのか、ツカサは目を泳がせ始める。
「ええと、もしかしてこれも答え辛い感じだったか。あー、なら別に無理して答えなくても……」
確かに名前は無い。仕事上の名前は簡素すぎるし、素性をばらす様なものだ。…………いいや、1つだけあったな。大切な名前が。
「クロネ、それがアタシの名だ。」
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