第17話 不審者、収穫
翌朝、早く起きた俺は昨日植えたマンドラゴラを見に行くついでに庭園内を適当に散歩していた。
「やっぱり異世界に来たんだよな……。」
庭に生えた花々。異様に背の高いタンポポみたいな花、地面に向いて咲くひまわりっぽい花。元の世界と似て非なる花達が咲き誇る庭で俺は改めて異世界に来たことを実感していた。
やがて鑑賞用ゾーンを抜け、果実を実らせた植物のゾーンへと入る。ここにもやはり似て非なる植物が存在していた。
「これはトマトっぽい、これはミカン、りんご、足、ナス、きゅうり、桃、キャベツ……うん?」
何か今、変なの数えた気がする。
踏み出した足をターンさせ、元来た道を戻る。
「キャベツだろ、桃、きゅうり、ナス、足、りんご……足!?」
ナスっぽい植物とりんごっぽい植物の間、そこに長い足が生えていた。膝上膝下足首付近の3箇所にベルトが付き、両脚がベルトで繋がっているブーツをはいた両足。
どこか有名なシーンを
「人間……だよな。」
マンドラゴラの亜種は人間態の可能性もある。だって、植物ゾーンに生えてるし。それに、引き抜いた後に絶叫でもされれば一溜まりもな……いや、俺は大丈夫なのか。
幸い周りにレイもマーリンも居ない。マンドラゴラよりも強力な叫び声でも安心して引き抜ける。
「収穫、開始っ!!」
両足を掴み、腰を据えて思いっきり引っ張る。が、何か引っかかっているのか、なかなか抜けない。
「くっそ、どうなってんだよっ。」
硬い音が何度も鳴る中、両足から先が全く出てこない。さすがに苛立ちが募ってくる。
大きく息を吸い込み、両足を持ちながら引っ張り、空を見上げることで体重をのせていく。更にもう一度、踏み込む。
「たあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺の体は勢いを増し、尻もちをついたと同時に地中に埋まったソレを引きずり出した。
ブーツの上は頭から腰までを覆う黒いマント、そこから覗く紫の髪、そして顔につけられたスチームパンクを意識したペストマスク。何より気になるのは腰に携えられた日本刀。ジャンルが渋滞を起こしてるんだけど。間違いない。これはマンドラゴラじゃない、不審者だ。マンドラゴラの方がファッションセンスがありそうだ。
「あの、大丈夫ですか?」
声をかけてみるものの、反応は見られない。仕方無いので顔の方へ回り、肩を叩いてみる。
「あの、……ってあれ?」
軽く叩くように起こそうとした俺の指先がその不審者に触れることは無かった。不審者が消えた、と思ったけどそうじゃない、俺が投げられたんだ。その証明として
しゃがんでいた筈の俺は、一瞬の内に地面に這いつくばっている。
「じゃあ、さっきの子はどこに行ったんだ!?」
慌てて顔を上げた先に不審者はいた。仁王立ち、とまではいかないまでも堂々と、そして臨戦態勢を整えた立ち姿。その姿勢のまま、不審者はフードを外す。ショートカットに揃えられた鮮やかな紫の髪が風になびいて揺れる。
「シュコォ…………。」
黒ずくめの見た目にガスマスクから漏れる効果音で宇宙の戦争映画の有名悪役のような雰囲気を醸し出す不審者。しばらく見つめあった後、不審者はペストマスクへ手をかけ、取り外した。
そこから現れたのは、クールな顔立ちの少女だった。年齢は俺と同じ18くらいだろうか。三白眼に近しい瞳でこちらを睨む彼女は、そのままこちらに迫り、耳元で告げる。
「お前を殺す」
「何なんだ、あんた。」
いきなりの殺害宣言に驚きながらも問いかける。しかし、返答はない。あれか、心が読める力があって、さっきの想像とか全部読んでて怒ってるのか?
『ぐうううううううう~』
困惑する俺の耳元に続いて届く平和な音。
腹の虫を鳴かせた当人へ目をやると、お腹のあたりを押さえながら、俺の肩へ顎を乗せて静かに寝息を立てていた。
「ははっ、まるでどっかの勇者様と同じだな。」
俺は少女の肩周りと膝裏へと手をまわし、担ぐ。見た目以上に軽い。ちゃんと栄養とか取ってんのか心配になるな。
いわゆるお姫様抱っこをしながら俺は少女を城へと運んで行った。
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