第二章 楽園は果ての無い空を征く

第14話 料理のさしすせそは1つもない【準備編】

「ふわぁ。」


 僅かに差し込む朝日を浴びながら、目を覚ます。用意されたふかふかのベッドから抜け出したく無いのは山々だが、そろそろ部屋の外が騒がしくなってきた。


「行く、か。」


 洋風の部屋、その扉を抜けて一階に降りる。一階は風呂、食堂とリビング、玄関、トイレに分かれている。2階は……まぁそれはまた今度。とりあえず、食堂に入る。

 食堂の机には既に二人、どちらも席についていた。


「ふぁ。おはよう、ツカサ。」


「遅いお目覚めじゃな、ツカサ。」


「おはよ。それと、ヴァンパイア様はお年だから目覚めが早いんじゃないか?」


「ほぅ?この麗しきマーリン様を捕まえて年寄り扱いとはいい度胸じゃな。」


 俺の軽い挑発に乗せられ、マーリンが椅子から立ち上がる。どうやらやる気らしい。


「じゃあ、何歳なんだよ。のじゃロリ系は大体合法ロリって、相場が決まってるんだよ。」

 

「ひ・み・つ♡ じゃな。レディに年齢聞くとか其方、さてはモテないじゃろ。」


「なっ……そんなこと無いし、めちゃくちゃモテてたし?」


 モテた、そう確信させる記憶は1ミリもない。が、しかし。俺が向けられる好意に気づいていなかった可能性も…………ないな。

 でも、もうこうなった以上、引くに引けない。


「嘘、じゃな。まぁ?モテぬ小僧に構ってやる優しい余に感謝するがよいぞ。」


「このチビヴァンパイア……!」


「何とでも言うがよい、この非モテマイナージョブ男!」


 向かいあい、おでこを突き合わせて争う俺達。そんな二人の耳にある音が響く。


『ぐうぅぅぅー』


 音の先に目線を向けると、恥ずかしいのか、顔を押さえているレイ。


「そ、そろそろ朝ご飯にしないか……?」


 自由気ままに音を出したお腹とは違い、手と手の隙間からかろうじて絞り出した真に迫る声に、俺達は争いを止める他無かった。


         ◇


 昨日の夜の内に抜いておいたマンドラゴラを焼き、それぞれの皿に乗せる。それを見ながら、マーリンが呆れた様な顔をする。


「其方ら、よくこれを口にするものじゃな。」


「ん……どうして?」


 特に文句も無く口を動かしていたレイが首を傾げる。まぁ、俺はその理由が分からなくもないが。


「いや、これじゃし。」


「「毒!?」」


 二人の声が思わず合わさる。俺が、俺達が食べてきたマンドラゴラが毒……?


「其方ら……というかレイは知っておろう、マンドラゴラは根に毒を持つ。食すれば幻覚に幻聴に悩まされること山の如し。『焼きマンドラゴラ屋』とか名乗っておったが、焼いても毒性は消えぬぞ。」


「……知らなかった。」


「まじかよ…………」


 唖然とする二人。

 焼きマンドラゴラ屋の存在意義って何なんだよ。毒性の物を焼いて売るって、それってもう毒屋じゃん。


「いや、ポーションの材料に使われてるんだし、毒性あっても大丈夫だろ?」


 これみよがしにため息をつき、首をすくめるマーリン。やめろ、『こいつ、常識ないのか?』みたいな目で見るんじゃない。


「少量じゃから許されるのじゃ。其方らの様に丸々食うたら死んでしまうぞ。」


「いや、マーリン、私達は死んでいない。」


「はぁ、レイは勇者の血筋で能力値、特に運が極めて高い、そしてツカサは女神の加護。其方ら二人だからこそ回避出来ておるだけじゃよ。」


 やれやれという風にジェスチャーをするマーリン。こいつ、もしかして指摘だけして具体案出さない奴か。いや、でもこの余裕は流石に何かある。

 一部の望みをかけ、俺は次の一手を打つ。


「そこまで言うからには流石に何かあるんだよな、大変麗しきヴァンパイア様?」


 俺の挑発を受けてもマーリンは余裕の笑みを崩すことは無い。それどころか、これでもかと言う程椅子にふんぞり返り始めた。


「もちろん。余は偉大なるヴァンパイア故、其方に力を貸してやらなくもない。じゃが、余は年増故、力が貸せぬかもしれぬなぁ?」


 こいつ、さっきのこと根に持ってるな。全く、勝ち誇った顔しやがって。………でも、俺はこんな策には屈しな、屈しな────


「誠に申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ!!!!!!」


 俺は勢い良く地にひれ伏し、日本に伝わる最大級の謝罪、『土下座』を発動した!!

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