第11話 楽園追放

 転移魔法の使えない三人が頭を突き合わせるダンジョン最深部。


 徒歩で地上まで戻る、それしか無い現実に頭を抱える俺とレイとは反対に、呑気そうにしているマーリン。こいつ、さっきまで気まずそうにしてたのに……演技だったのか?


 俺の疑いの視線に気付いたマーリンは背中から黒い翼を生やして浮かぶと、空中で足を組み、ポーズを決めてみせる。


「いや、別にそんなの求めてないから。楽に地上に戻れる方法を考えてくれよ。使えないんだろ、転移魔法。」


「いや、使えぬ訳ではない。転移魔法は過去に訪れた事のある場所にのみ転移する魔法。余が幽閉されてから何年経ったか知らぬが、地形や建物が変わっている以上、使わぬが吉、じゃな。」


「海の上とかなら大体でいけるんじゃないのかよ。」


「それはそうじゃな。じゃが、余は魔に属する者、そこの肩を落としておる小娘の呪いの妨害を受けるはず。そうなれば、どうなるか分かりはせぬ。」


 マーリンの言う通り、レイはこの話の結末が分かっていたかの様に俺達へ背を向け、三角座りで気落ちしていた。


「……私の事はいい。ツカサだけでも地上に戻ってくれ。それから助けを呼んでくれればいい。」


「はぁ……パーティーなんだろ、俺達。お前が行けないなら歩いて帰ろうぜ。何日かかるか分かんないけどさ。」


「ツカサぁ……!!」


 振り返るその瞳には涙が溢れていた。いや何、そんなに感動することなのか。


「ん。頑張ろうぜ。」


 俺が差し出した手を握り、レイが立ち上がる。

 そんなふわっとした感動シーンにマーリンが口を挟む。


「あの……実は余、1つ手があるんじゃが。」


「「は!?」」


「早く言えよ、ポンコツヴァンパイア!!」


「い、言おうとしてたんじゃし、其方らが勝手に盛り上がっとるだけじゃろうが。」


「ほら見ろ、レイも羞恥に耐えかねてるだろうが。」


「あう…………見ないでくれ……ちょっと盛り上がったのがバカみたいじゃないか……。」


 せっかく立ち上がったのに、またうずくまるレイ。その顔は耳まで赤く染まってしまっている。


「で、何だよ。その方法って。」


 尋ねられたマーリンは得意げに笑う。そこまで余裕があるなら早く言ってくれよ。


「禁忌塔バベル、ダンジョンとなる前は塔じゃった。故に、変形する。」


「え?」


 変形って言わなかったか、今。気のせいだよな、文章の繋がりおかしいもんな。


!!」


「気のせいじゃなかった……。」


「展開するが、良いか?」


「いいけど。レイはどう思う?」


「別に……私も構わない。」


 ようやく復活したレイが立ち上がり、答える。顔の赤みもそろそろ引いてきたらしい。

 そんな俺達を見て、マーリンが上に手を伸ばす。


「起動せよ、失楽園パンデモニウム。」


「あわわわわわわ!!!!!!」


「大丈夫か、ツカサ!!!!」

 

 ダンジョンが上下、左右に恐ろしく振動する。足腰が立てないレベルで揺れるダンジョン、残念ながら立てていないのは俺だけだったが。

 少し傾きながらも平衡感覚を保つレイがこちらに手を伸ばす。レベルが低いだけで筋力はあるんだよな、こいつ。

 

「ありがと、な。」


「パーティーなんだろ、私達。」


 心から嬉しそうに笑うレイ。それがダンジョン制覇した俺への報酬だったのかもしれない、そう思えるほど、輝く笑顔だった。

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