第9話 戯けた二人は知らぬ間に世界を救う【前編】

 ドレスを着た赤髪の少女は言った。願いを一つだけ言え、と。それだけ言うと、少女は幾らでも悩めとでも言うかの様に棺を閉めた。


「どう考えても罠だよな。」


「罠なのか……?」


 首を傾げるレイ。こいつ、世間知らずのせいか人を疑う事を知らないんだよな。


「俺達を始末できる位の力があるのに願いを叶える、なんておかしいだろ。絶対、罠だ。」


 願いを言った途端食われるとか、願いを叶える事で永遠に従属させられるとか、ロクでもない結末が待ち構えていることこの上ない。


「私には彼女が悪い人間に見えない。」


「その根拠は?」


「私は人を見る目があるからな。」


「……その根拠は?」


 確かに澄んだ綺麗な碧い目。でも、だから人を見る目があるとは言えない。

 すると、まだ何かあるのか、少し恥ずかしげにレイは微笑む。


「ツカサは私を助けてくれた。それに私を見捨てずここまで連れてきてくれた。私の目に狂いは無かった、ってことだろう?」


「お前、初めて会った時地面に這いつくばってたし、それを拾ったのも俺だし。見る目とか関係ないだろ。」


「でも、ツカサが優しい事に変わりは無い。」


 いつから、このポンコツ騎士はここまで言うようになったのか。呆れる程の純粋さにこっちがやられそうだ。


「……はぁ、分かった。レイが好きな願い事をしろよ。俺はお前の目に賭けるから。」


「ふふっ、任せてくれ。」


 そのままレイは棺の前へと歩き、その一歩手前で足を止める。

 棺は開き、もう一度少女が姿を現す。その顔に一瞬陰りが見えた気がしたが、気のせいだったのだろうか。


「勇者の末裔よ、願いは決めたか?」


「はい。決めました。」


「言ってみせよ。其方の願い、聖杯たる余が叶えてみせよう。」


 聖杯。気になる単語が出てきたが、今は口を出すべきじゃない。今はレイの願いを聞かないと。


「私は……」


 部屋中に満ちた空気さえレイの言葉を待ちかねている、そう錯覚する程に部屋は静まり返っていた。


「私は、。」


「ふぇ!?」


 想像もしていなかったのか、少女はその金色の瞳を大きく見開いた。

 レイの純粋さは相手が誰であれ、クリティカルヒットするらしい。


「だから、そんな鎖は断ち切って私と、いや、私達と旅に出よう。いいだろうか、ツカサ。」


 レイはその言葉と共に少女へ左手を差し伸べる。


「ったく、勇者お前らしい選択だよ。……なぁ、あんた。うちの勇者様のお誘い、まさか断らないよな?」


 俺もまた右手を少女へ向けて差し伸べる。


「あっ、はっはっ。其方らは道化師は道化師でも切り札ジョーカーの類だったとはな……!!」


 少女は自分へ向けられた両手を見て笑い、そして掴んだ。その言葉の意味は分からないが、おおよそ褒めてはくれているみたいだ。

 

 願いが受理されたのか、鎖はひび割れ、そして消えていく。やがて、残されたのは少女だけ。少女は俺達の手を握りながら、ふわりと降り立つ。


「余は今日から其方らの仲間じゃ。よろしく、頼むぞ。」


「こちらこそよろしく。」


「ん、よろしく。」


 こうして、謎ののじゃロリ系美少女が俺達のパーティーに加わった。




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