第3話 ツイてない君

 変わらずダンジョンの中、屋台の中、椅子に座る女騎士。


「うっ……ぐすっ……それでぇ……私は勇者の……末裔なんだ……。」


 そう言うと、空のジョッキを凄い勢いでカウンターに叩きつける。ジョッキに入っていたのはただの水、水だよな……。不安になるほど、目の前の女騎士は情緒不安定になっていた。


「はいはい。」


「なっ……!その顔は……信じてないな……これっ、これを見ろ!」


 女騎士は懐からカードの様な物を取り出す。そこには氏名、ジョブ、ステータス、スキル、レベルが書かれていた。もちろん、俺はこれを見たし、このやり取り自体10回目だ。話している間に口調も崩れてきた。


「だって、お前のジョブ「冒険者」じゃん。レベルも1だし。嘘つくならもうちょいマシな嘘つけよな。」


 人のジョブを馬鹿にできない立場ではあるが、これはこれ、それはそれ。これを言うと初めに戻るんだが、今回は違った。


「きさ……貴様っ!! 幾ら、こんなダンジョンの奥で店を開いている田舎者だからといって、リュミエール家の名を知らない筈が無いだろう!!」


 目に見えて激昂した女騎士は立ち上がり、俺の胸ぐらを掴む。その篭手にはレベルと裏腹に多くの傷が付いていた。


「あー、えっとお前の名前もリュミ何とかだったよな。」


「そうだ、私はレイ・リュミエール。偉大なる勇者の家系、リュミエール家の長女だ。」


「へー。」


 リュミエール家とか言われても、俺の頭にはこの世界の知識がないから、反応しようがない。あの女神様も流石に言語の知識は刷り込んでくれたみたいだが。


「今まで名を明かした事があったが、貴様の反応の薄さはピカイチだ。」


「そりゃ、どうも。」


「褒めてない。」


 ぐぅぅーー。


 睨み合う俺達。二人しか居ない空間に腹の虫が鳴く。俺はさっき食べた、ということは。


「……そろそろ焼きマンドラゴラというのを貰えるだろうか…………」


 みるみる内に顔を赤くしていくレイは、大人しく椅子へと腰を下ろした。


「ん、作ってやるよ。」


 俺は近くの地面へ向けて手をかざす。そして、イメージ通りのマンドラゴラを作り出す。

 それを引き抜こうとして、慌てた様子のレイに手を掴まれる。


「何してるんだ、貴様は阿呆なのか?」


「え?お前が言うから作ろうとしてるんだけど。」


「それはマンドラゴラだろう? 引き抜こうとすれば即死級の絶叫を放つと呼ばれているモンスターの。」


「そうだけど。って、力強っ……。」


 レイは俺の手を掴んで離そうとしない。早く調理しないと逃げちゃうんだけど。


「今、ここで引き抜けば二人とも死ぬことになる。貴様は分かっているのか、それを。」


「あー、そうか。そうだった。」


 俺は女神様の加護で無事なだけだった。今までみたいに俺一人なら好きに抜けるけど、レイが居ると変わってくる──なんて事は無く。


「分かってくれたか?」


「じゃあ、耳塞いどいてくれ。」


 少し微笑んだレイが力を緩めた隙を突き、マンドラゴラを思いっ切り引き抜く。

 そんなにうるさくないし、耳を塞げば大丈夫だろ。


「─────!───────!!」


 叫ぶマンドラゴラ。やはり俺には心地良い音色にしか聴こえない。続けて横で何かが崩れ落ちる音。もちろん、それはレイ。


「あ……あう………。」


「勇者なら……死なない、よな?」


 不安に苛まれながら、俺は泡を吹いて倒れた自称勇者の介抱し始めた。

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