第一章 ぼっち系勇者はツイてない

第1話 間違いなく不運な俺

 「異世界転生ダーツの旅!!投げたダーツが刺さった場所に転生、そこに応じたチート能力から伝説の武器、もしくはたわしが貰えます!!どうです、やってみませんか?」


 桃色の髪に緑色の瞳の彼女はそう言って、手書きで書かれた歪な丸いボードを取り出した。文字を書く前に枠線を引いたのか、字がごちゃごちゃして読みにくい。


「え、俺死んだんですか?それにあなたは一体?」


「私はモモ。担当世界を救う為、適当に他の世界からあなたの様な凡庸な人間を見繕い、凄い力を与えて送り込む女神。あ、あなたは死にましたよ、ちゃんと。」


「とりあえず、オブラートという概念が無い世界なのは分かりました。」


 包み隠さす言いすぎだろ。こんなのが女神で大丈夫か、この世界。


「まぁ、あなたがどう死んだかはどうでも良いことです。それよりも大事なのはこれから。あなたを異世界に送り込みます、良いですね?」


「嫌って言ったら?」


 死んだなら、天国にも行けるんじゃないのか。あるかは知らないけど。

 

「…………。」


 顔から微笑が消え去ったモモは俺の質問に答えず、杖を虚空から取り出す。そして、無言で杖の先に光の球みたいなのを溜め始める。


「え、何それ?」


「…………。」


「もしかしなくても、殺そうとしてないか!?」


 杖の先の光球は輝きを増していく。何も言わず、俺を見つめるモモ。これが無言の圧力……。


「い、行きますよ異世界。わぁ、嬉しいなぁ。異世界行きたかったんだよなー。」


「分かって頂けたようで何よりです。」


「解らせられたんだどな……。」


「な、に、か?」


 女神らしからぬ殺気の籠もった目。お願いだから、杖を握り直すのはやめてくれ。


「では、仕切り直しを。」


「はい。」


 「異世界転生ダーツの旅!!投げたダーツが刺さった場所に転生、そこに応じたチート能力から伝説の武器、もしくはたわしが貰えます!!どうです、やってみませんか?」


「あはは、やりたいなー。」


 俺の聞き間違いじゃ無けりゃ、たわしって聞こえたんだけど。たわしだけ渡されて送り込まれるのは危険過ぎるだろ。金持ちの道楽なのか、異世界転生ダーツ。どこかで撮影とかされてないよな。


「カメラとかは無いので安心してください。」


「ナチュラルに心の中を読むのやめてもらっていいですか!?」


 女神様は俺の言葉をガン無視して、小さな矢を一本渡してくる。


「さ、行きますよ。」


「たわし以外なら何でもいい……!」


 回転する巨大なルーレット。武器やら能力やらがいっぱいあるせいか、その分それぞれの枠が小さい。たわしの枠は緑色、それさえ避けられればいい。


「何が出るかな、何が出るかな〜」


 女神様は愉快そうに両手を叩く。バラエティ番組でも見てる気分なんだろうか。


「それはサイコロのやつでしょ……あっ!」


 突っ込みに気を取られた俺は、間違えたタイミングで手を離してしまった。回転するルーレット、ダーツが刺さる寸前、緑色の枠が回ってくる。────たわし。


 タンッ


 軽い音を立てて、ルーレットにダーツが刺さる。刺さっているのは緑色の部分。もらえるのはたわしのはず、はずなんだが。


 カランコロンカランコロン


「あっはは、まさか引き当てるなんて……ぷっぷっ……ぷはっ!!」


 ハンドベルを鳴らしながら、モモは笑い始める。ハンドベルが鳴ったということは当たり……のはずなんだが。モモの性格的に俺が当たりを引き当てて、喜ぶはずが無い。


「……何が当たったんだ?」


「残念賞。」


「残念賞。」


 思わず復唱。何でたわしの他に残念賞まで用意してるんだよ。

 自分の仕事が済んで気楽になったのか、モモはペラペラと話し始める。


「あんたみたいなのをバンバン異世界に送ってさ、正直飽きてきたし、本とか見せて選ばせるのって効率悪いのよ。だから昨日の深夜、ルーレットを作ったのよ。」


「深夜テンションに付き合わされたのかよ……」


「な、に、か?」


「はい、すみません。」


「ちゃんと申請したら、印刷所で作って貰えるんだろうけど、面倒くさいから手書きにしたの。そしたら、枠と枠の間に隙間ができたのよ。だからそこを残念賞にして、深夜テンションで適当に書き込んだ場所、能力、ジョブをあげることにしたの。」


「へぇ……ちなみに内容は……?」


 モモはポケットからぐちゃぐちゃの裏紙を取り出した。それを開いて見る。てっきり笑うかと思ったが、読み終わった後、俺から気まずそうに目をそらした。そして、一言。


「ごめんなさい……。」


「いやいや、何書いてあったんだよ。俺にも貸してくれ。」


 おずおずと差し出したモモから受け取り、紙を見る。そこには。


【場所:最難関ダンジョン最深部】


【能力:マンドラゴラを生成し、安全に調理できる】


【ジョブ:焼きマンドラゴラ屋】


 深呼吸を何度か。吸って、吐いて。吸って、吐いて。そうしている内に気分が落ち、気分が、気分が────


「落ちつけるかっ!!!!ふざけんな!!百歩譲って能力まではまだいいよ、何だよ焼きマンドラゴラ屋って!!そんな奴を最難関ダンジョン最深部に送り込んで世界救えるわけないだろ!!!!!!」


 魂からの叫び。こんなに叫んだのはいつ以来か。

 叫んでいて気づかなかったが、俺の身体は光りだしていた。転生が始まったらしい。え……この状態で……?


「取り消し、取り消しだろこんなクソ条件っ!!」


 伸ばした手は光に阻まれ、モモまで届かない。それを良いことにモモは好き放題言い始める。


「ルーレット第一号、どうなるかと思ったけど結構面白いわ。焼きマンドラゴラ屋なんてジョブを考えた深夜の私は天才ね。確か最難関ダンジョン最深部って未踏破……あっ。最後に名前、聞いておいてあげます。」


「今、絶対死ぬじゃん、とか思っただろ。はぁ……俺は神崎司かんざきつかさ。覚えとけよ、次会った時その顔面にアツアツのマンドラゴラぶつけてやるから。」


 焼きマンドラゴラがそもそも何か知らないけど、絶対その顔面にぶつけてやる。


「それじゃあ、頑張って世界を救ってくださいね、勇者……いや、焼きマンドラゴラ屋様。……ぷふっ。」


 もう会うことはない、そう確信しているのか、愉快そうに笑う女神の顔を最後に俺は異世界へと飛ばされた。

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