第41話 千宮歩、再び到来

ゆずが帰ってきた。そろそろ朝食に行くか。


「あら。枕クンクンタイムだったのね。失礼するわ」

 

「してませんー。早くご飯に行くぞ」

 

「はいはい。少し待ってね。英慈は髪にドライヤーをかけてくれない?」

 

「自分でやれよ・・・。」

 

「待って!ウチがやるよ」

 

「そう。それなら沙稀にお願いするわ」

 

誇らしげな顔をこちらに向ける七海。七海は何と勝負していたのだろう。別に悔しいなんて思っていないからな! 

本当だからな・・・。

 

朝ごはんを済ませ、グラウンドが一望できる休憩室で紅茶を飲む。


全ての談話室、休憩室に紅茶やソフトドリンクなどの飲み物が無料で飲めるのは素晴らしいと思うよ。

 

窓際のカウンターに座り、紅茶を飲み干す。で、ここからが問題だ。部屋で体力測定の割り当てを確認した時に偶然目に入ってしまった一件の未読メッセージ。誰からかと開けてしまったら、千宮くんから。

 

「一緒に体力測定を受けませんか??僕は昼組です!」

 

ライルもはすみもゆずも七海も8時からの朝組に入っていた。このままだと1人で体力測定を受けざるを得ない。


一緒に受けてくれる人が居るのは有難いが・・・。


相手は一方的に好意を抱かれている同性。


・・・まぁ仕方ない。

 

「了解!」

 

文字を入力し、送信する。

 

「ありがとうございます!!それではプールで!」

 

え?プール?慌てて種目表を確認してみると、記念すべき最初の種目は遠泳。


オウマイゴード・・・。最初から体力がゴリゴリに削られる種目じゃないですか。


遠泳としか記載されておらず、具体的な距離は分からない。1キロくらいで終わらないかな。甘い期待を抱きながら種目表に目を落とす。


・・・色々な種目が詰め込まれているな。並行感覚、条件反射計測・・・耐G試験!?


この学校はなにを生徒に求めてるんだ 耐G試験で測定された個人データの使い道はどこだよ。宇宙飛行士にでも育成させる気か?それともあれか?特務工作員のフィールドは地上だけでなく、宇宙も含まれるってか?正気の沙汰ではない。

 

とにかく、お昼ご飯も満足に食べられる時間はなさそうだ。ということでコンビニにてゼリータイプの携帯食料を購入しに行こう。

 


体育の授業時に使用しているジャージに着替え、バックの中に水着やら食料を詰め込んでプールへの道を急ぐ。ちゃんと水の温度は適切なんだろうな。屋内プールであることが唯一の救いかもしれない。

 

「く、黒羽君!」

 

あ、少年。

 

「千宮くん・・・? 言いにくいから下の名前で良いか?」

 

少年の顔が喜びで満ちあふれる。

 

「はい!僕も・・僕も、英慈君って言って良いですか!?」

 

「あ、ああ。大丈夫だよ、歩」

 

「はい!!!」

 

圧が凄い。漫画で表すとしたらコマを飛び出すような描写をしてくる子だ。

 

「どう?遠泳は自信ある?」

 

何か会話しないと。


会話のラリーを開始する為に緩めのサーブを放つ。

 

「じ、自信ないです!」

 

「そ、そうかぁ・・・・」

 

緩めに放ったサーブは思いがけずサービスエース。会話のラリーに失敗しました。

 

「あ、そう言えばどのくらいの距離を泳ぐのか知らない?」

 

あらかじめ覚悟を決めておきたい心から、質問を投げてみる。

 

「それは知ってますよ!10キロって聞きました!」

 

「え??」


「ですよね~。25キロかと思ってたので拍子抜けでした!」

 

こちら、1キロかと思っていた人です。


はいはい、甘い考えは捨てます。この学校は異常。なんで俺が居るのかなぁ・・・。

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