第39話 予想

 

「あー目が覚めちゃった! ・・・英慈! 取り返したんだね!」

 

「そうだな。七海のお陰でもあるぞ」

 

「そうかぁ~・・・そうかぁ」

 

他人事なのに凄い嬉しそうにしてくれるのは性格の良さを感じる。


そう言えば、七海はいつも俺の味方で居てくれて・・・。


あー・・・デジャブを感じると思ったらこれか。


これ、中学一年の時、最初の席替えで隣の席になった七海はある事件でずっと俺の味方になってくれた。事件って大それた問題じゃないけどね。詳しく? 鮮明には思い出せないけど、文化祭の出し物だったな。

 


教室展示で世界遺産の模型を作ることになった。それで俺達の班はマチュピチュを作ろうって話になって、合成樹脂をメインに使用した結構なクオリティのものを作り上げた。


完成したのが文化祭の前日。何とか間に合ったって班員達と喜びあったことを覚えている。ただ、喜べたのは前日まで。本番の朝、何故か朝早く目覚めてしまった俺はクラスで一番乗りの登校時間だった。いつもなら遅刻ギリギリなのにな。そこで目にした光景は壊れたマチュピチュ以外の作品なんだよ。そこからのお話は想像通りって訳だ。

 

七海だけが信じてくれた。半年間、クラス中から冷たい目で見られていたけど、七海だけはずっと隣にいてくれた。一緒に帰るようになってこう言われたんだっけ。

 

「学校に来て辛くないの?」

 

「別に。信じてくれる人が1人でも居るなら辛くないよ。七海のお陰だろうな」

 

「そうかぁ~・・・そうかぁ。」


そう嬉しそうに言ってくれたのを覚えています。いつかこの巨大すぎる恩は返せるのだろうか。

 

「ねぇ! 聞いてる!?」


「え? 何だっけ?」

 

急に現実へと引き戻される。

 

「バトミントンがしたいそうよ」

 

「ば、ばとみんとん?」

 

「そう! まだ夜ご飯まで時間があるよ!」

 

これも恩返しになるのだろうか。

 

「仕方ないな。行くぞ、ゆず」


「私はまだ寝たいわ」

 

「ダメだ。布団も持って行くぞ」

 

「・・・意地悪」

 

「何とでも言え」

 

「ほら! 早く行こ!」


「はいはい」

 

バトミントンねぇ・・・。それにしても、なんで唐突にバトミントンなんだ?

 


「っていうことだ。これまでいろいろありがとな」

 

「どうもどうも。はすみも安堵していたぞ」

 

本日二回目のお風呂です。バトミントンから帰って夕食にしようと思ったけど、汗をかいた身体がお風呂を欲していた。あ、1人で入るのもあれだからライルも巻き込みました。

 

「一応は解決して良かったよ・・・」

 

「そうだな。SAEGが盗まれたなんて教員にバレたら大変だったぜ」

 

「考えるだけでも恐ろしいぐらいだ」

 

そういえば。ライルの意見でも聞いておこうか。

 

「それで、国藤には喋るなってどういう意味だと思う?」

 

「・・・俺の予想か?」

 

「そうだ。ライルの予想を聞きたい」

 

「そうだなぁ・・・」

 

ある程度は自分でも考えてみたけど、かなり不可解なものだと思う。


なにせ、こちらが覚えている限りでは萩と一切交流がなく、恨みを売買するような場面もなかった。だからこそ、国藤の命令でSAEGを盗むことになったのだろうと予測していたのだが・・・。


ってよく考えてみるとやってることが幼稚園児並じゃないか? 物を盗み、困らせる。単一思考回路すぎて、学年2位のお方がするような方法ではない気がしてきた。

 

「まず、国藤は関与しているだろう。これはほぼ確定だ」

 

「そうだな。それを前提としないと成立しない」

 

「あぁ。それでここからが俺の予想だ。あくまでも予想だからな?」

 

「何をそこまで入念に確認してるんだよ。サラッと言ってくれ」

 

「自信が無いだけだぜ。とにかく、俺が考えるシナリオはこうだ。国藤は周りに黒羽英慈を困らせたい、退学させたいと漏らしていた。周りの人間はこう考えるだろう。黒羽英慈を退学させたヤツが国藤から可愛がってもらえて将来的にも望ましいと」

 

あんなヤツから可愛がってもらって嬉しいか? だけど、もれなく事実だろう。妙な人間も世界に存在するもんだ。

 

「そこで、国藤とは一ノ宮からの付き合いで腹心と言っても過言ではない萩は考えた。四ノ宮から国藤と付き合い始めたヤツとの差をつける為には、黒羽英慈を自分の力で退学させるしかない、と」

 

筋道も立っているし、矛盾する点はこれまでに存在しない。ここまではもっともらしいように聞こえるな。

 

「そこでさっそと英慈に退場してもらう為にはどうするべきか。答えは簡単だよな。SAEGを紛失させることだ。警察官が無くしたら最も問題になるようなものが拳銃であるように、特務工作員候補生が一番無くしてはいけないものはSAEGだからだ。そこで、英慈にSAEGを無くすように説得することなんて不可だし、無くす時まで待っている訳にもいかない。そういうことで、短絡的に盗むことにした」


深呼吸をしながら肩までお湯に浸る。客観的に経緯を辿ろうとしていたけど、身の上に起こった出来事だから主観的にならざるをえない。あーダメだ。まだ俺、怒ってるんだ。自分が分からないなぁ・・・。

 

「どうした?」

 

「いやいや、何でもないさ。続けてくれよ。」

 

「そうか。それでここからが問題だ。多分、国藤は英慈がSAEGを無くしてるって情報を知っていた。そして、盗みで解決するような行為を否定した。つまり、国藤は無自覚に萩を否定したんだ。それからさっきみたいな流れになったんだろう」

 

「なるほどな・・・。国藤にも善が残っていたと」

 

「そう俺は信じたい」

 

「さては性善説推しか」

 

「っていう訳ではないが、性悪説よりはマシだと思うぜ」

 

「それもそうだな。・・・そろそろ飯、食べに行かないか?」

 

黒羽英慈は何よりも食事好きだ。空腹には素直になると幼少期から決めている。

 

「おう。俺ものぼせそうだぜ」

 

「それなら早く言ってくれよ・・・」

 

水風呂から風呂桶で冷水をすくうライルを見ながら考える。

 

多分、ライルは忘れているのだと思う。そして、賢いが故に国藤と真っ向から対峙したことがないから分からないだろう。


七海を侮辱するような発言、そしてゆずに痴漢を彼はしている。既に罪の意識を持っていないと断言しても大丈夫だろう。


なにせ、普通の人が心に抱いている自分だけの小さな世界ではなく、人が生きている現実世界で国藤は全てが許させる。そんな彼に罪の意識が備わってることを願うなんてただの道化ではないだろうか。


なによりも、彼と対峙した時、俺の直感がそう言っていた。

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