第38話 元に戻り、咥える

談話室。今日はもう行かないって思ったんだけどな。

 

―ピッ

 談話室の中に見覚えがある人が居た。人として見覚えがある訳ではない。国藤が何かを発言する度に気味の悪い笑いをあげていたオブジェクトとして見覚えがある。

 

「待たせたな」

 

「・・・黒羽か」

 

「あぁ、そうだ。萩、だよな」

 

「そうだ。関わっているところを見られたら困るからな。手短にするぞ」

 

この高飛車感。一生好きになれないタイプだ。

 

「お前のSAEGを返すけど条件がある」

 

「・・・何だ?」

 

条件。何が望みだ? 

 

「SAEGを紛失した事を国藤さんにバラすな」

 

どういうことだ。国藤の命令でSAEGを盗っていたってことではなく、萩が単独で盗んでいたってことなのか?

 

「・・・理由は」

 

「お前に伝える必要が何処にある。とにかく、これ以上口外するな。いいか?」

 

えー・・・。俺、一応盗まれた本人なんですけどぉ・・・どう考えても理由を伝える必要があるんじゃないですか? 


そんなこと言わないけどね。立場的には圧倒的に萩の方が有利だから従順にしておきますよ。

 

「分かった」

 

「そうか。ほら、やるよ」

 

そう言って俺のSAEGは談話室の後ろへと投げ捨てられた。

 

歩みを出口へと向ける萩。

 

―ピッ

 

犯罪者だろうとドアは無条件に開き、萩を外へと逃がした。

 

投げられたSAEGを拾うために椅子から立ち上がる。怒りを覚えているのは間違いないけど、それを上手く出すことが出来ない。萩にぶつけるべきだったのだろうか。俺自身に投げかけるべきなのか。試しに床を叩いてみようと思ったけど、必要としていない自制心が干渉してきた。

 

再会したSAEGは以前と何も変わらない姿。2度と手放さないと決心し、その場を立つ。怒りを内に閉じ込める。


さぁ、深呼吸をして部屋に戻ろう。

 


「回収できたのね」

 

「あぁ。万事オッケーさ」

 

「良かったわね」

 

「うん。助かった。ありがとう」

 

「ここ数日でそのセリフは聞き飽きたわ」

 

「何度聞いてもいい言葉だと思うが?」

 

「英慈が言うと言葉の価値が下がってしまうのは気付いてるのかしら」

 

「うるせぇよ!」


少しぎこちないけど笑うことが出来た。

 

「ん~・・・うるさいよ・・・」

 

七海が起床してしまった。

 

「おはよう。もう夕方だぞ」

 

「まだ寝る・・・」

 

「あら、英慈が七海のパンツを咥えてるわ。斬新ね」

 

「食べるなぁあああああああああ!!!!!!」

 

「食べてねぇよ!!!!!」

 

「見間違いだったわ。ごめんね」


「見間違いって言っても、そもそも何も咥えてないからな!」

 

爆弾発言魔かよ。


え?咥えたこと?ないから!同じ部屋だからたまに見えてしまうけど、咥えていないから!俺をどんなヤツだと思ってるんだよ!

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