第36話 好き、を初めて受けました
好き。
うーん、これってどういう意味だろう。俺は残念ながら相手に使用したことも、使用されたことも記憶にないけど・・・。
多分、あれだよな。性格がってことだよな?
「・・・性格的に?」
「いえ!僕はあなたが恋愛的に好きです!だから1秒でも長く見ていたくて後を付けていました!」
「あっ・・・え?恋愛的に・・・?あぁそうかぁそうかぁ~」
それって好きな故、ストーカーをしていたってことだよね?
しかも男!あどけなさがあって可愛いと言えなくもないけど、男!ごめん!
「ごめん・・・俺、女性が恋愛対象なので・・・」
「・・・そうですか」
「うん・・・」
空気が重い!うん、かつてないほどに重い!
「でも諦めませんから!」
「フェ?」
「文字通り諦めないんで!」
「あ、あぁ・・・はい。はい?うん」
もうどうでもいいか。うん。それで、なんでこんな流れになったんだっけ?
千宮くんが俺の部屋まで告白をしに来た。うん、違うね。何かを探していたような・・・SAEGだ!
「ところで、俺のSAEGについて何か知ってる・・・?」
「はい・・・現場を目撃しました。」
「現場?」
「荻くんが黒羽くんのSAEGを盗んでいる現場です」
「荻くん?」
「萩義輝。国藤の取り巻きの1人だな。出身は一ノ宮だぜ」
ベッドでぐっすり眠っていたはずのライルが起きて情報をくれた。
証言は聞いたけど、それの信憑性はどうなんだ?
「萩ってヤツだと断言できるのか?」
「はい。あれは萩くんです」
「理由は?」
「僕の・・・タッグパートナーだからです・・・」
・・・・なるほど。
「萩くんが何故か早起きするようになって・・・それで後をつけてみると黒羽君が走っていて・・・最初は萩くんが直ぐに帰るから僕は心ゆくまで黒羽君を見ることができて・・・」
怖いな。心ゆくまで見られていたのか・・・。
「それで、萩くんも黒羽君を見に来ていたのかと思っていたけど・・・思ってきたんだけど・・・あの日、萩くんは・・・黒羽君の着替えを触ってSAEGを盗ってしまって!」
萩くんが千宮くんと明らかに「見る」目的が違うのは伝わってきた。
「僕だって黒羽君の服を触りたかったのに・・・」
「お、おう」
「モテモテね、英慈」
「英慈ってモテないタイプだったのに・・・」
「凄いね・・・」
「うるせぇよ!」
後ろで座っている女子3人衆が呑気に紅茶を飲み始めてる。
「私達はどうすれば良いの?」
「うんうん」
「一緒にお茶しましょ」
五人衆になってしまった。
「とにかくっと・・・萩が犯人なんだろ?」
ベッドから飛び降りながらライルが千宮くんに問いかける。
「はい・・・でも!悪い人ではないので・・・あの・・・先生には・・・」
「勿論だ。だから、その萩ってヤツと会えるように頼めるか?」
「分かりました!」
「それならまた連絡してくれ」
「生徒名簿から勝手に追加して良いんですか!?」
「それしか方法はないだろ?」
「分かりました! 直ぐに萩くんに会ってきます!」
そう言って部屋を飛び出す千宮くん。できれば、俺への想いも彼の心から飛び出て欲しいけど。
「いやぁ~想像の斜め上を行く展開だったな!」
「私達も覗いた瞬間、びっくりしてしまったよ」
「そうそう。シリアス展開だったから恋愛感情なんて予想していなかった!」
「それは俺が一番驚いてますよ・・・。初めての告白がこんな形なんて予想してませんでした」
「・・・ライバルか」
「どうしたんだ、七海。そんな険しい顔をして」
「ん?何でもないよ!?まだウチの方が有利だし!?」
何が有利かは知らないけど、勝負事でもしているのかな?ギャンブルはほどほどにね。
「それじゃ、お姉さん達は帰るね。今から特別実習に顔を出さないといけないんだ」
「分かりました! 今日はありがとうございます!」
「何も役に立たなかったけどね~。あ、みんな元気でね~」
「また顔を出すわ」
「そうだな。俺も行くぞ」
二人は部屋へと帰り、この部屋には五人だけとなった。
「これからどうするんだ?」
「先生に言わないから!っていう条件で萩とお話するしかないだろうな」
そう、手持ちの材料だけで萩と交渉するなら必然的にこのような方法しかないだろう。
「それしかないよな・・・だが、国藤の息がかかっていたら終わりだぜ」
「だよなぁ・・・」
例えば、俺のSAEGは既に萩の手元には無く、国藤が持っているかもしれない。教員達は国藤の行動に目を瞑らないといけないっていう謎ルールが限りなく高い確率で存在する以上、国藤がこの事態を把握していたら困るのだ。
・・・つーか、国藤の命令でやってるとしか考えられないよな。そういうことだと、国藤はこの事態を把握している訳で・・・。
うーん、詰み?
「交渉は俺達が手出しできない。あとは英慈が一人で取り戻すんだ」
「あぁ、分かってる。ありがとう」
「幸運を祈っとくぜ」
「私も」
はすみから、彼女の澄み切った綺麗な目を媒介して真摯な願いを受け取った。
「二人とも本当にありがとう。感謝してる」
「気にすんな!俺達は部屋に帰るから進展があったら教えてくれ」
もちろんだとも。特にライル、君には絶大な感謝をしているんだ。ライルがいなかったら今頃、解決への出口すら拝めずに暗闇の中でうなだれていただろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます