第31話 総動員捜索

721号室、つまり俺の部屋には話を聞きつけてライル、はすみが来てくれた。さっきからショックで何も考えがまとまらなくて、どうすれば良いのか分からないから他の人の意見を聞けるだけでもありがたい。

 

「本当にどうすれば良いんだよ・・・」

 

「何か心当たりはないのかしら。」

 「心当たりって言われても・・・そもそも俺に良い感情もっている人が極端に少ないからなぁ・・・」

 

そう。痴漢騒ぎを誤解したままの人の方が多数派まである。これまでは、どうでもいいやって思っていたけど、こんなことに発展するのなら、広言しとけば良かった。

 

「そう言えば、英慈が昨日変なこと言ってなかった?」

 

「俺が変なことを言った?」

 

あれ、なんかはすみに言ってたっけ・・・。昨日の会話すらまともに思い出せない。やっぱり病気だな。


・・・病気?そう、目線を感じたから・・・。

 

「それだ!!!!!!」

 

「き、急に大きな声を出さないでよ!」

 

「分かったぞ!」

 

「誰なんだ?」

 

「・・・それが分からないんだ」


「それ、凄く意味がないと思うわ」

 

「いや違うんだって!はすみと練習していた時にずっと不審な目線を感じてたから、謎が解けたって言うか・・・。とにかく、あの時間帯に競技場付近に居たヤツが犯人だと思う。」

 

ん、確かに謎は何も解決していなかった。ただ関連性が生まれただけ。それでも、一切何も分からない状況よりは全然良いと思わない?

 

「でも、それを知ったところで5時に競技場に居た人は英慈とはすみとその人だけだと思うよ・・・?」

 

遠慮がちに七海からの提言があったけどその通りです。

 

「そうね。だからといって教師達に頼ると紛失事件がバレてしまうわ」

 

「あぁそうか。先生達はみんなの位置情報持ってるからだよね。ごめんね、英慈・・・」

 

「はすみは何も悪くないからな。気にするな」

 

かなり気落ちしているように見えるけど、本当に気にしないで欲しい。何で、こう女子って責任感じたがるのかな。もう少しルーズに生きてもバチは当たらないよ?


でも、黒羽英慈ほどルーズに過ごしたらSAEGを紛失する天罰がくだるから気をつけてね。

 

「そうね。そもそもSAEGを手放している時点で英慈が悪いわ」

 

その通りです・・・。

 

「英慈は面倒くさがりだからな。気を付けた方がいいぜ」

 

はい・・・。

 

「それで英慈はこれからどうするの?ウチはもう一度競技場で探した方が良いと思う」

 

「私も・・・そうするわ」

 

「そうだな。落ちていたら見逃す訳にはいかないだろう」

 

「私ももう一度見に行くね」

 

「別にみんな行かなくても・・・」


何だか総動員で探すパターンになってて慌てて止める。

 

「うるさいわ。早く行きましょう」

 

「・・・はい」

 

本当は感謝してます。素直になれたらありがとうを倒れるまで伝えたい。こんな時に必要のない恥ずかしさがこみ上げてきて、たった五文字も伝えられない。

 

「そんな顔すんなって!一緒に探そうぜ!」

 

違うんだ。俺は君たちに向ける顔がないから困ってるんだ。でも、ここで素直になれば・・・。

 

「・・・ありがとう」

 

「ん?当たり前だからな。気にすんな」

 

「そうね、英慈は英慈らしくしとけば良いのよ」

 

声に出して言えて良かった。前で喋っているはすみと七海には聞こえなかったらしいけど、また今度言ってみよう。

 

「・・・俺らしいってなんだ?」

 

「最低最悪、暴言虚言癖寝言がうるさい・・・あと何があったかしら」

 

「寝言言ってるの!?!?!?」

 

自覚がなかった。そうか、同じ部屋だから寝言言ってたら気付かれるのか・・・。

 

「冗談よ」

 

「・・・寝言は言ってないんだよな?」

 

「私は直ぐに寝るから分からないわ」

 

「そうか。それなら虚言癖の称号を返還後、贈呈するよ」

 

「そこが最低最悪なのよ」


いや!それはゆずだろ!って返したいけど、今はやめておこう。


ほら、七海達がエレベーターを開けて待っている。今は競技場にSAEGが眠っていることを願って・・・。

 

物を落としたと気付いた時、まず人はその物を最後に使った、見たところから思い出そうとするだろう。


俺も例外ではなく、最後に見た場所から探している。でも、この場所はもう一時間前にも探したんだよな。競技場の中にありながら、誰からも必要とされないような位置に設置されたベンチだが、すでに俺の脳内では重要オブジェクトになっている。


ベンチ、お前が隠したのか?一度くらい主人公になりたかったのか?少し本気で問いかけてみるけど、彼は一切の反応を示さず。当たり前か。

 

「見当たらないわね。なんとかして文明の力に頼りたいわ」

 

「だからといって英慈が紛失したことを悟られる訳にはいかない。相当なジレンマだぜ」

 

「もう、俺が無くしてるってことはバレてもいいかな・・・。怒られるのは当たり前だよ」

 

「退学とまではならないと思うけど、特務工作員になれないぐらいのリスクは分かってるのかしら」

 

え、いやそんな覚悟は持っていません。

 

「少し考えが甘すぎるぜ。ここは自己管理能力に欠ける人に寛容な場所じゃないぞ」

 

「ライル、そこまで言わなくても・・・」

 

「はすみ。別に英慈を脅している訳じゃないぜ。多分、はすみや七海が考えているよりも深刻な事態なんだぞ」

 

「そ、そうなの?」

 

「ごめん・・・」

 

「自分達で見つけることがベストな解決策なのは間違いない。そして、リミットは次の実習授業だ。英慈、次の実習授業はいつなんだ?」

 

「え? あぁ・・・えーと、来週の月曜だ」

 

「分かった。それなら、来週の月曜までに全員で探すぞ」

 

「迷惑かけるけど・・・よろしくお願いします」

 

友達に頭を下げる経験なんてこれまでの人生で経験したことなかったものだが、今はするべき時だ。何も考えられないけど、それだけは分かる。

 

「大丈夫だって!ウチが探してくるからさ!」


そう言って、七海が俺の背中を思いっきり殴打する。

 

「ゥエッホッテ!ありがたいけど背中は叩くなよ!」


痛い!を上手く言えずにゴリラの鳴き声みたいになってしまった。ちなみに黒羽英慈はゴリラではありません。人間です。

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