第30話 紛失

―ピロピロピロピロピッ・・・

 

今日はアラームです。寝る前にセットしたことを覚えている。確か時間は4時40分。これまでと比べたら時間に余裕がかなりある。今日はスポーツウェアを用意できるな。先に競技場に向かっておこう。

 

競技場に着いたけど、はすみはまだいない。昨日まで2日間連続で待たせていたから、ここらで負債を返しておこう。


競技場には誰にもいなけど、ど真ん中で着替える趣味はないので少し外れた陰で着替え、脱いだ部屋着を近くのベンチに置く。


財布は・・・まぁ大丈夫でしょう。こんな朝早くに競技場に来る人がそもそもいない。


「あ、英慈―!」


入り口から全力疾走してくるはすみ。最近気付いたけど、人のいないところだと大きな声出せるんだよね、はすみ。声自体が小さいのかと思っていたから結構びっくりしたことの月間ランキング上位です。


「待った?」


「今来たところだからな。ほとんど待っていない」


「私は寝坊しかけたよ・・・。ふわぁ~」

 

かぁわいっ! 小動物的なあれで、愛でたくなってしまう。


「それなら明日から時間ずらすか?」


「うーん、でも予約取ってしまってるから・・・」

 

予約って変更できない決まりだっけ?何かあったようななかったような・・・。まぁいいや。


「それは後で考えようぜ。準備は良いか?」


「バッチリだよ! 今日こそ40周で・・・」


「それはなしで」

 

こやつ、諦めが悪すぎるぞ。

 

走っています。現状報告です。現在、15周目です。


昨日までのはすみなら既にバテていたはずなのに、なかなかしぶとく後をついてきます。何事もそうだけど、先頭って凄いプレッシャーかかるんだよね。


・・・学年ビリがこんなこと言って大変申し訳ありません。


それと視線、感じます。自意識過剰なのかな・・・どうも競技場の後ろだとは思うんだよね。


だから競技場の後ろを見て走る時は目を血眼にして視線の正体を探しているんだけど、見つからない。


これ、本格的に病気かも。あぁ、勿論はすみからの視線じゃないとは思うよ。でも可能性の排除は出来ないよね。もし、はすみが凄い目力で俺の背中を見ていたら勘違いしてるかもしれない。



「お・・待たせ・・・」

 

俺が走り終わった数分後にはすみが完走した。


「無い・・・!?」


「どうしたの?」

 

着替えた後の妙な違和感。ポケットには財布の

重み、腕にはリリスが巻き付いている。そして、いつも右腰に付けているホルダーからはSAEGの存在を感じることができない。

 

「SAEGがない」

 

「・・・え?」

 

あぁ・・・これはヤバいぞ。特務工作員候補生として一番の禁忌を犯してしまった。

 

「ちゃんと探したの?」

 

「・・・もう1回探してみる」


その後、はすみにも手伝ってもらい、着替えを置いていたベンチ付近をくまなく探した。


で、なかった。


盗まれたに違いない・・・って決めつけるのは良くないけど、限りなく100%に近い値で誰かにとられている。

 

「あれは他人じゃ絶対扱えないようなものなのが不幸中の幸いだな」 

 

「そうだね・・・」


ただ、盗まれた事実は変わらない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る