第29話 人生イージーモード
「お邪魔するわね」
躊躇なく部屋に入るゆず。知り合いだから遠慮なんていらないのが当たり前なんだろうけど、見知らぬ人の家に上がる時もゆずはこんな風だと思う。借りてきた猫・・・そんな言葉を身に纏うことは一生ないだろう。
「何してるの?」
「あ、いや・・・お邪魔します」
「もう入ってるんだけどね」
「それは言わないでください」
「ふふっ・・・英慈君は面白い人だね」
「ははは・・・・」
帰ったら面白い人って言われた時の対処法を検索しておこう。
部屋は左半分と右半分で全くインテリアが異なっている。てか、左半分の壁紙がピンクなんだけど? 壁紙って替えて大丈夫だっけ? ド派手な左半分と対照的で右半分はシンプル・イズ・ベストを売りにしている雑貨屋のショールームのようだ。
「英慈っちはどっちが好み?」
おそらく、夏美さんと思われる人から尋ねられる。
「こっちですね」
指を向けるのは右半分。左半分も女の子の部屋としては良いけど・・・好みとしては右半分かな。
「あーあ。これだからシンプル族はセンスなくて困るんだよね。ねぇゆず?」
「そうね。シンプル過ぎるのは良くないわ。」
「あら、昨日までの私は少数派の蹂躙される側だったけどね、今日からは英慈君が味方だから異を唱えさせてもらうわ」
あれ?俺、もしかして姉妹喧嘩に巻き込まれそうですか?瑠璃夏さん?僕を勝手に巻き込まないで!?
・・・しばらく見守っていても終わりそうにない。
姉妹喧嘩に血縁関係がない謎の少女が紛れこんでいるけど気にしちゃ負けだと思う。
「「それで、英慈君、英慈っちはどう思うの!?」」
「・・・」
「英慈、答えなさい」
ゆずが一番怖いっす・・・。
何とか姉妹喧嘩は終了し、ティータイムになった。お茶のお供として出されたマカロンがおいしい・・・。これは取り寄せたのかな?
「このマカロン、どこから取り寄せたんですか?」
「夏美が作ったのよね」
「そう、私の手作りよ。おいしい?」
「マジっすか!?めっちゃおいしいです」
マジか。このマカロンは毎日食べたい。
「お嫁さんになってあげようか?」
にやりと笑いながら聞いてくる夏美さん。
「毎日食べたいってそういう意味じゃないですよ!」
「へへへ・・ごめんごめん。覗いてなかったけど、話題主が私だったからセンサーが反応しちゃった」
「そういうものなんですか?」
「そういうものなんだよね。いつもは意識的に覗かないようにしてるけど、実際には覗いてるものを無視してるだけだから、気になるワードが出てくるとついつい反応してしまうんだ」
「不便な能力だよねー」
「本当にそう思うよねー」
「結構便利に感じますが・・・」
「「違うんだよねーこれが!!!」」
え、そうなんですか?相手の考えてることが分かるって良いと思うな。だってほら、考えたことない? あの子は俺のことどう思ってるのだろうとか。
「確かに便利面は計り知れないけどね」
「もうこれが不便なんだよ!」
「英慈君は友達から嫌いって目の前で言われたことある?」
「いや、ないっすね」
「「そうだよねー」」
「英慈っちは人生がイージーモードだと感じたことある?」
「絶対、ないっすね」
「「そうだよねー」」
特にここに来てからはハードモードだと思っています。
「人生がイージーモードなら全然良いと思いますが・・・」
「人は無いものに執着してしまう生き物なんだよ。英慈っち」
「私達は人生の中で苦労の先に味わう達成感ってものにありつけないのよ」
なるほど。人生ハードモードな身としては共感することはないけど、意味を理解することは出来る。
「贅沢な悩みね」
「ゆずぅ~。そこは頷いていてよ~」
「うんうん」
先輩にも容赦ないな。
「そろそろ帰るわ。お昼寝の時間が近いの」
「あーそんな時間か。おやすみ!」
「また来てね。ゆず」
「マカロン食べにまた来るわ。」
席を立ち、スタスタと退散するゆず。帰るスピードが尋常じゃない。
「ご馳走様でした」
「英慈っちもまた来てね!」
「ええ。またお邪魔します」
「楽しみにしてるね」
「こちらこそ。それでは」
部屋から出てきて手を振ってくれる二人。面白い人達だったな。あと、マカロンが美味しかった。
うん、マカロンは至高。
「今から寝るのか?」
「そうよ。活動限界に近いわ」
「一時間くらいで昼食だぞ」
「それでも寝るわ。二時間後に起こしてね」
「一時間後な・・・・ってエレベーターで寝るなよ!」
何とかゆずをベッドまで誘導し、ソファーで一息つく。・・・人の考えを読める、か。
何度願ったのだろうか。あの子の考えを知りたい、分かりたい。今でも夢に出てくる少女は記憶に焼き付けられた想像の写像で、鮮明な顔は思い出すことが出来ない。
告白しても別れは必ずやってくるって考えていたけど、今思えばあれは逃げでしかない。
単純な男子だったから恋に落ちると盲目に難聴で、臆病だった。
中学一年生から3年間続いた初恋は実らずの地面に落ちて、腐らすことも出来ずに手の内にある。
もう1度、咲かせようと連絡先を見るけど・・・あの子は覚えてくれているだろうか。
らしくない。もう辞めたんだ、こういうこと。こんな風に感傷的に思い出に浸るのはダサすぎる。
さ、バレたなら部屋に帰ってお勉強でもしておきますか。
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