第26話 冴えない男
―ピロピロピロピロピロピッ・・・
目覚ましのアラームを即消すことに成功しました。黒羽英慈、朝に打ち勝つ歴史的快挙。この調子で毎日・・・。
「それでも眠いわ!!!!」
はい。5時起きキツすぎ。これをずーと続けるのか・・・。
―ピロピロピロピロピロ
アラームじゃなくて着信だったぁぁ!
「はい!黒羽です!」
「あ、びっくりしたよ~。事故にあったのかと思ったよ」
「はい!ごめんなさい!今から行きます!」
―ピッ
全っ然勝利していませんでした!打ち負けていました! いや・・・集合時間は午前5時のはず。はすみが早く電話を掛けてきたに違いない!
時計を確認すると午前5時2分。
・・・はい。急いで準備します。
「あ、英慈〜!」
「遅れてすまん・・・」
「いやいや。私が頼んでる事だから!」
それなら電話しないでくださ・・・いやいや何でもないです。俺も競技会に向けて体力作りをしたかったので好都合ですよ!滅茶苦茶面倒くさいなんて一切思っていませんから!
「もう準備体操はしたか?」
「うん!あ、そういえばさっき先客さんが居た気がしたけど今は・・・居なくなっちゃったのかな?」
「先客?」
「うん。私が到着した時にあそこのベンチに座っていたよ」
「へぇ・・・珍しいな」
競技場は完全予約制になっているからバッティングしないはずなんだけどな。競技場のジムもまだ開いていないし・・・。
物好きな人も居るんだな。
「それじゃ、今日も走るか」
「そうだね!今日こそは40周走っ・・・・。」
「20周だ。さぁ行こう!」
40周なんて誰が走るか!プロアスリートでも寝起きでその距離は絶対走らないぞ。保証はしないけど。
・・・昨日走ってみて気付いた。20周ぐらいなら最初から少し飛ばしても問題なく走れる。あと途中からペースを上げる走り方や、人を追いかけるのも性に合わない。前半のはすみよりも早いペースで走るのは至難の業だが・・・。
13週目かな・・・走ってるうちに分からなくなってきた。体が悲鳴を上げだす頃合い。だけど、感覚はまだまだ働いていると思う。
感覚。そう、人に見られている感覚だ。12周目から視線を感じ始めた。だけど、その視線の主は確認できず。
どこに居るんだ? 観客席は開放されていないし、ただ平面に続いてる競技場の中にも隠れる場所なんて無いはずだ。敵意とかは察知できない人間だけど、好意とかではないと思う。
・・・何処に居るんだ?
「ふぅ・・・」
なんとかペースを保ったまま走り抜くことが出来た。今日ははすみに1度も遅れをとることは無かったし、結構良いタイム出てると思うよ。
え? 具体的に?
いやいや計っている訳ないでしょ。もし、絶望的なタイムを叩き出してしまったらどうするんだよ。現実から背くことも大切だと思うんだ。
・・・現実に背く、か。忘れようとしてたけど、あの視線は何だったんだろう。最後の方には感じなくなっていたけど・・・。
疲れて感覚がバグってたのかな・・・?そうだよな。俺なんか見ても仕方ない。
・・・はすみが見られていたのか?
でも・・・非常に失礼だけど・・・何とは言わないけど・・・走ってもはすみのものは動かないんだよな。だから見ても意味ないと思うし・・・。
いや、それがステータスだと言い切る人も存在するんだ。それとも、はすみは可愛いから人気があるのかもしれない。だから運動中も注目されているとか・・・。
一応視線を感じたかってことくらいは聞いてみよう。それにしても、今日ははすみがなかなか走り終わらないな。体調でも悪いとか?それなら無理せずに休んで良いんだよ。
「ゼェ・・・ゼェ・・・よう・・やく・・・走り終えたよ・・・。」
数分遅れてはすみが20周を完走してきた。
「お疲れさま」
「英慈、昨日は本気で走っていないでしょ・・」
芝生に崩れながら聞いてくる。
「ペース配分とかを変えてみただけだぞ」
「そうなの・・・?」
「そうだよ。はすみもペース配分を考えてみたらどうだ?」
考えるべきだと思う。最初の10周は女子だったら相当早いと思う。だけど、半分を越してからが遅い。前半作った貯金を切り崩して借金を生成してるくらい遅い。
「そうだな。もう少し前半は温存してみたらどうだ?」
「そうだね・・・明日はそうしてみる・・・」
明日もあるのですか・・・。
「そういえば、走っている最中に視線を感じなかったか?」
「視線・・・?いや、気付かなかったけど」
「そうか」
「何か感じたの?」
「あぁ、少しだけな。多分勘違いだと思う」
「そうなんだ。でも気をつけなくちゃね」
「そうだな」
勘違いか。自意識過剰かと思われて恥ずかしいよ。こんな冴えない男を誰も見る訳ないのに視線を感じるなんて言っちゃって・・・。
冴えない女子ならお話は別で、だれもが振り返るようなヒロインなんだろうな。
・・・特に意味はないから気にしないでね。
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