第24話 名ばかり指定校推薦

部屋に帰るとスナック菓子の臭いが嗅覚器官に強烈なパンチを叩き込んできた。

 

「・・・臭うぞ」

 

「にんにく&にら風味のポテトチップスがコンビニにあったの。食べる?」

 

なんだその味。その商品を仕入れたコンビニ店員の脳みそを疑いたいけど、ここで需要を生み出してしまったモンスター達の脳みそを疑うのが先か。

 

「おいしいのか?」

 

「うーん・・・味が濃いしか分からない!」

 

「そうね。よく分からない味だわ」

 

「それなら食べないぞ・・・っておい! それおれのベッド!」

 

「そうね。みんなのソファーだわ」

 

「あぁ。確かにそうだな。だけど絶っっ対こぼすなよ!?」

 

こぼされたら俺がにんにく&にら風味のベッドで夜を過ごさなきゃならない。ただでさえ寝心地悪いのに、悪臭まで染み込まれたらたまったもんじゃない。

 

「善処するわ」

 

「含みがある言い方だな!?」

 

「お風呂に行くんじゃないの?」

 

「あぁ。行ってくるよ!」

 

俺の棚から着替えを取り出して・・・クリーニングに行くのは明日にしよう。面倒くさい。

 

横目で七海を見ると・・・やっぱりだ。最近、言動は元に戻ったとはいえ、ときどきあの表情を目にする。どうせ、「ウチが居なかったらソファーで寝る必要は・・・」なんて思っているんだろうな。馬鹿らしい。

 

お風呂でライルと喋りながら二時間くらいして部屋に帰ってみると、もう部屋は暗かった。・・・よし、ベッドにポテトチップスは落ちていない。


ソファーじゃないかって?うるさい。俺にとっては紛れもなくソファーなんだ!あ、ベッドか。ベッドなんだ!

 

今日も色々あったなぁ・・・。明日からは休みだ。ゆっくり体を休めるとしよう・・・なんか予定があったようななかったような・・・。おやすみ。


―ピロピロピロピロピロ

 

・・・。

 

―ピロピロピロピロピロ

 

・・・忘れてた。

―ピロピロピロピロ・・・・

 

「あい」

 

「英慈?起きてる・・・?」

 

「もちろん・・・」

 

嘘です。はすみからの着信音で起床致しました。

 

「良かったぁ~。なら、競技場で待ってるね!」

 

時計を見ると午前四時五十分。いやぁ・・・この時間はキツいよ・・・。

 

「あ、こっちだよー!」

 

早朝の競技場には誰も居ない・・・当たり前か。このプロサッカーチームのホームグラウンドのような競技場に二人だけだと圧を建物から感じてしまう。

 

「お待たせ」


「いやいや。私もさっき来たばっかりだから。でも準備体操は終わらせたから後は走るだけだよ。 」

 

「そうか。それなら少し待っててくれ。・・・それで何キロ走る予定なんだ?」

 

確かここのトラックは一周400メートル。本番は8キロだから20周ってことになるのかな。でも、流石に最初で20周はないだろう・・・。1周?2周?

 

「うーん。本番の倍は走っておきたいから40・・・」

 

「うん。20周にしようか。」

 「そうだね・・・やっぱり本番の距離に慣れておくべきだね!」

 

・・・この子、頭大丈夫なの? 運動神経・・・良くないんだよね?え?待ってこれ・・・いやいや、まさかね?早計だよね?これで普通に俺より速かったらドロップキックするからね?

 

「じゃぁ、そろそろ大丈夫?」

 

「おう。それじゃ、気楽に行こうぜ」

 

そうそう。気楽にな? 

 



―ゼェ・・ゼェ・嘘だ・・・ろ?

 

着いていくだけで精一杯。えーと・・・まだ10周。え?あと半分?

 

―・・・ゼェゼェゼェ・・ふぅ・・・。

 

何とか完走できました。はすみは12周あたりから急激にペースを落として一周遅れ、いや二周遅れでまだ走っています。


危なかったぁ・・・。でも、これで長距離走遅いって感覚おかしいんじゃないか? 


中学時代の長距離走は平均からかなり上の位置に居た気がしたけど・・・。俺の中学にはすみが居たら間違いなく女子のトップ10に入っていたぞ?

 

もしかして・・・いや、ランキング最下位の時点で少し勘づいていたけど、明らかに俺とのレベル、違う気がする。


だって七海が下から二番目だぜ?陸上の実績だけで強豪高校からのお誘いがあったレベルのやつだぞ?入学前の基礎体力測定も個人ランキングの決定には関与してるらしいから、いくらお馬鹿な七海でも230位くらいないとおかしいんだ。


一体、俺はなんでこの学校に合格したんだ?


「いやぁ・・・早い・・ね・・英慈は・・・」

 

何とか20周を走り終えたはすみが帰ってきた。


「そんなことあるか。多分、ライルは俺の数倍速いぞ」


「うん。ライルとかゆずとかは異次元・・」

 

そうだろうな。もう驚きはしないぞ。


「はすみは一般で受かったのか?」

 

芝生に寝っ転がりながら質問してみる。


「それしか方法が無いと思うよ?」


「え?指定校推薦って無かった?」

 

俺の中学、普通にあったんだけど・・・。


「あー・・・あったけど、絶対受からないって話だよね」


「え??」


「去年は指定校推薦で受かった人居なかったって言ってた気がするし」


「・・・・」

「今年も居ないと思うよ?多分、凄い才能を持ってる人だけ通すんだと思う」

 

あっれぇ・・・。もしかして、俺の合格ってミスですか? 確かに、あの試験会場で見かけた人を未だに発見していない。


・・・ミスだろうな。これからは、俺がこの学校にいる意味を深く気にしないことにしよう。


「そ、そうなのかぁ・・」


「そろそろ寮に帰る?」


強烈にお腹は空いてるし、朝焼けで綺麗だった空はとっくの前にいつも目にする姿になっている。


「そうだな。あいつらも起きてるだろう」


非常にマズいな・・・。女子でこのレベルか・・・。


体力測定はランキングに入らないけど、その後にある競技会はランキングがかかっている。


テストの方が厄介だと思っていたから気に留めていなかった。


あぁ、競技会ってのは体育祭みたいなものらしい。無論、学校の性質上観客は生徒しかいない。


また、全ての競技に順位付けがあるらしい。まぁ、詳しくは俺も知らないんだけどね・・・。

 

部屋に帰るとお二人はまだ夢の中の様子。二度寝しようかと思ったけど、汗だくだから朝風呂に行くことにした。

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