第23話 強引なはすみさん

その日の6限目が終わると、輝かしい連休が待っていた。


「ようやくゴールデンウィークだよ!!!」

 

「あぁそうだな。遅起きが出来るのは素直に嬉しい」

 

夕焼けに染まってる空の下、休暇に期待する高揚感で寮に戻る足が軽い。急激に走りたくなるってこういう状態のことか。

 

「七海、寮まで丁度100メートル位だと思わないか?」

 

「お、英慈が勝負したがるとはねぇ。いいよ!」


そう、七海とは家が近いこともあり一緒に帰ることが多かった。その時に100メートル走で何度勝負したことか。


対戦成績?んー特別ルールを採用してからは五分五分だと思うぞ。

 

「それじゃ・・・ほい」

 

俺の荷物を七海にパスする。


「はーい。ウチは久しぶりに走るなぁー」

 

「俺もだよ。ライル、スタートの合図頼むな」

 

「「ちょっと待った」」


な、なんだよ。そんな唖然とした表情を向けられたら何か不安になるじゃないか。

 

「英慈、沙稀に荷物を持たせるの?」

 

「あーそうだが?」

 

ゆずが何故か疑問の表情を浮かべている。

 

「七海は女の子だよ・・・?」

 

「あーそうだな」

 

どうした?はすみの口調がなんだか厳しいぞ?

 

「・・・英慈。お前はそういうヤツだったのか」

 

あれ?ライルまで軽蔑の目でこっちを見てるよ?

 

「大丈夫だって!ウチがハンデあげてるだけだから!」

 

あ、そういうこと。多分、みんなは俺の方が足速いって思っているのかな?

 

「まぁまぁ。見れば分かるから、スタートやってくれよ」

 

「そうなのか?・・・そういうものなのか?」

 

「まだー?ウチ、久しぶりの体勢で少しキツいかも」

 

横を見ると・・・コイツ、本気だ。クラウチングスタートの体勢になっている。両脇に荷物抱えてるから何とも奇妙な体勢だな。

 

「そ、そうなのか。分かった。それでは・・・Take your mark・・・」

 

え?何それ!?

 

「GO!!!!!」

 

え?スタート?ま、まぁ良い、とにかく走れぇ!!!!!

 

ゼェ・・・ゼェ・・・ゼェ。

 

「今回もウチの勝ちだね!」

 

か、完璧にスタートからミスった。あと、革靴は超走りにくい。

 

「沙稀・・・見直したわ。ゴキブリ並に速かったわよ」

 

それは褒めてるのか・・・?あと、オブラートに包もうぜ。

 

「えへへへへ〜」

 

照れてるけど、G並っていう表現は訂正しなくて良いのか?

 

「ホント凄いな。俺よりも早い気がするぜ」

 

ライルにまで褒められている。

 

「へっへへへへ~」

 

あ、完全に調子乗ってきたな。次こそは完璧に打ちのめしてやろうじゃないか。


・・・そろそろ起き上がるか。アスファルトと背中合わせをしてたけど、励ましの一つくれなかった。冷たいヤツだなぁ。

 

「ね・・・あれで運動音痴なの・・・?」

 

あ、はすみがすっごいショックを受けている。

 

「いっやぁ~それ程でも~」

 

夕食の時の話題も七海の走力で持ちきり。

 

「でも凄いわよ。全国大会の決勝なんてそう行けないわ」

 

「だけど・・・ムゥ・・・その実力で謙遜は罪だなって思うよ!」

 

あら、はすみが珍しく怒っている。

 

「そうかも・・・ごめんね。はすみん」

 

「うん、許してあげる」


仲直りしてる二人。まぁ、仲直りするレベルのものじゃないんだけどね。

 

「それだとしても、女の子に荷物持たせるハンデは恥ずかしいぜ、英慈」

 

「うっ・・・」

 

「そうね。多大に見損なったわ」


「うっうっ・・・」

 

「うん。そういうのはやめた方が良いと思う」

 

「うっうっうっ・・・・」

 

「そういえばそうよ。ウチは女の子だよ!」

 

「ごめんなさい・・・」

 

「へっへっへ~」

 

いやっ言い訳させて!?だって・・・確かにこのハンデを提案したのは俺だった。


うん。でも!でもっ!そう、このハンデが当たり前だったんだ!


そう。こういう時に使えるセリフを先人が言っていたではないか!

 

「でもっ、でも!俺は真の男女平等主義者なんだー!!!!」

 

・・・はい。言える訳ありません。これからは気をつけます。

 

「分かった分かった。次は平等に体力測定で勝負しようぜ」

 

「いや・・・ハンデあげないと勝負ないから!」

 

「うるせぇよ!!」

 

「楽しそうだから私達の中で勝負しましょ」

 

「お、良いこと言うな。そうしようぜ、体力測定の総合スコアで勝負しないか?」

 

ライルが乗り気になってるな。爆走する七海に感化されたか? 

 

「そうしよ! 五人で一番スコアが低い人が皆にプリン奢りね!」

 

「あれ?遠泳あるけど大丈夫か、七海。」

 

七海は陸上種目以外全然ダメで、特に水泳は大の苦手だったような・・・。

 

「大丈夫!他で全て補うよ!」

 

流石の余裕だな。プリン四つはキツいなぁ・・・。


何とか負けない程度に頑張らないと。

 

「・・・英慈、どうしよう」

 

あ、もしかして・・・はすみって運動音痴?

 

「どうしよう!」

 

夕食後、大浴場の目の前にある休憩スペースに連れて来られた。

 

「いやぁ・・・どうしようって言われてもな」

 

「本当に私、運動神経が死滅してるんだよ!」

 

いや、この学校に入れてるからには人並みはあるはずなんだけどな。

 

「あぁぁぁ・・・沙稀を信じてたから安心してたのに・・・」

 

「何が安心なんだ?」

 

「うぅ・・・体力測定で低いスコアとっても仲間がいるって」

 

「そんなに運動できないのか?」

 

「本当に出来ない・・・。特に長距離走が苦手・・・。それ以外ならなんとか人並みに出来るぐらい・・・」

 

そういえば、入試の基礎体力測定は長距離走が含まれていなかったな。

 

「・・・それなら練習しとけば良いんじゃないか? 幸い、ゴールデンウィークに入ったし時間は沢山あるぞ」

 

うん。長距離走っていう練習すれば比較的伸びやすい種目で良かったな。ま、俺なら諦めて恥を受け入れるけどな。特に運動系の努力はキツさに成果が比例していない。

 

「手伝ってくれるの!?」

 

え?そんなこと言ったっけ?慌てて会話の軌跡をたどる。

 

「英慈は優しいね!明日の朝とか大丈夫?」

 

「え・・・?あ、そうだね。うん」

 

ん? 

 

「それなら明日の朝五時に競技場を予約しとくね!」

 

んん?

 

「それじゃ、おやすみ!」

 

んんん?はすみさんってそんなタイプでしたっけ? なんか強引としか思えないような流れで夢にまでみた俺の優雅な朝が浸食されているんですけど。

 

「お、おう」

 

うーん。5時は・・・辛いなぁ。でも、頼られてるってことで良いのか?そう考えると少し気分が良くなってきた。

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