第22話 梅干しレモンスカッシュ風レモンティー

「そういやライルは?」

 

談話室には七海だけで来ている。

 

「まだ時間がかかっていると思うわ。私は途中で抜けてきたもの」

 

確かに、テストは終わった人から帰って良いっていうルールがあるけど俺と七海のクラスだと見たことない。

 

「そ、そうなのか。それならもう少し待っておくか」

 

「そうね。私は紅茶が飲みたいわ」

 

「・・・?左様ですか」

 

「そうよ。取ってきてくれない?」

 

「何で俺なんだ?」

 

「ほら、私よりも30㎝ドリンクバーに近いわ」 

 

「発言が小学生並みだな。でも仕方ないな、取ってきてあげるよ」

 

「そう、助かるわ。・・・同レベルの言語能力にしたら上手く伝わるのね」

 

「おい!聞こえてるぞ!」

 

「早く飲みたいわ。アイスティーで砂糖あり、レモンありよ」

 

「あー分かってる分かってる」

 

優しいなぁ、俺。そうそう、俺にはこの仏の心があるんだ。それだけでゆずに勝っている。自信を取り戻すんだ黒羽英慈!

 

えーと、アイスティーで砂糖あり・・・コンポタでもいれてやろうか。いや、コンポタは流石にバレてしまう恐れがある。


となると・・・梅干しだな。普段は緑茶のおつまみとして使われている乾燥梅干し。ほら、ドライフルーツの梅バージョンみたいな? 


それをアイスティーの中に少しだけ漬けとい

て・・・あっ少しだけならレモンスカッシュもバレないかな。さっきレモンもって言ってたからな。バレないだろ。


ほーら出来た、梅干しレモンスカッシュ風味のレモンティー。さてさてこれを持っていって・・・。

 

「英慈は変わった飲み物が好きなのね」

 

「っうおおおおお!?」

 

いつの間にか右脇からゆずが顔を出していた。

 

「私の紅茶はまだかしら」

 

「こ、これ。ほら、飲んでくれ」

 

「その変態フレーバーは英慈のでしょ?」

 

「あ、はい・・・。今から直ぐに作ります」

 

チクショウ!バレてしまった!また今度リベンジしてやるっ・・・ってそんな素直じゃないんだよなぁ。


ここからは慎重に考えよう。


いつもの俺なら、黒羽特製ドリンクをまるで普通のレモンティーのように差し出す。だけど、裏の裏を読んであえて俺が特製ドリンクを持っておこう。いつもの俺の行動を熟知しているゆずなら交換を迫ってくるはずだ。

 

何の変哲もないレモンティーを作ってゆずに届ける。

 

「ほい」

 

「ありがとう。英慈の紅茶もおいしそうね」

 

「お、そうか? でもあげないぜ」

 

「そう、ありがとね。頂くわ」

 

「お、おう・・・」

 

あっさりバレてました。仕方ないので頂きます。

 

「ふぅ・・・」

 

「一気飲みをするのね」

 

違う。飲むのに気合いを入れていただけだ。


「え?英慈が一気飲みするの!?意味分からないけど!」

 

「そうなの?英慈」

 

仲良く喋っていた七海とはすみまでが何故か乗ってきた。

 

「え?しなくちゃいけないの?」

 

「ここまで期待させておいてしないのはダメだよ」

 

「そうね。男の意地ってやつよ」

 

「頑張ってね・・・英慈」

 

え?なんか流れがおかしい方向へと流れているんですけど。


・・・あと、男の意地って言葉。俺は言われても全然良いけど、あまり人前で言うなよ。ほら、いろいろあるからさ・・・。

 

「じゃ、いっきまーす」

 

「「「・・・」」」


コールなしの一気飲み。圧倒的に飲み辛い。

 

「・・・コールは?」

 

「世間は厳しいわ」

 

確かになぁ・・・。


それでは、梅干しレモンスカッシュ風味レモンティー、頂きます。

 

―ゴクゴクゴク

 

「それで、どうかしら」

 

「・・・飲めないことはないけど、普通にマズいレモンティー」

 

「え? 何か入っていたの?」

 

何も知らない七海が聞いてくる。

 

「いろいろあったのさ」

 

「英慈は変な人だね」

 

遂にはすみまで変な目で俺を見るようになった。このままだと、女子全員から蔑みの目で見られるようになるのも時間の問題だ。

 

「すまん。少し待ったか?」

 

「ライル!待ったよ・・・ようやく俺を人間として見てくれる・・・」

 

嬉しさのあまり飛びつこうとしたら、かわされて壁と接吻をすることになった。

 

「どうしたんだ、英慈のやつ」

 

「さっきから奇行に走っているのよ。多分、時間制のものだから心配は要らないわ」

 

「そうなのか?」

 

「うん。英慈はバカだから仕方ないよ」

 

「七海よりは頭良いわ!」


七海だけには言われたくない!

 

「・・・さ、さっきから注目浴びちゃってるよ」

 

ボソッとはすみが放った言葉を確かめるために周りを見渡すと、確かに注目を浴びている。

 

「・・・飯に行くか」

 

「そうね」

 

昼はブッフェ形式じゃなくて注文形式。今日は何にしようかな。

 

奥の席からこっちをずっと見ている少年と目が合った。少しの既視感が脳を揺さぶったけど気のせいだろう。


・・・少年? 再び振り返っても少年がいた。そう、その人をひと目見た人は彼を間違いなくそう表現するに違いない。「少年」と。


例え、この場所には「少年」と呼ばれるような年齢の人は存在しないと前情報を得ていたとしてもだ。


・・・でも俺は思い出せない。


今は目の前に迫ったランチタイムの方が重要だ。そして、忘れてるってことは重要な事項じゃないよな。

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