第21話 談話室
「どうだったー?」
「まぁまぁかな」
「ウチもまぁまぁかな」
「ゆず達はもう終わってるのかな」
「・・・そう言ってすぐゆずのことを気にしてるね」
「そうか?特に気にしてる訳ではないけど、そう見えるか?」
「いーや。別に?」
「それなら聞かなくても大丈夫だぞ」
「英慈は意地悪だね。」
「あぁ。意地悪さ。・・・談話室で待っとくってメッセージ送っておいた」
「・・・はぁ」
思いっきりため息をつかれた。ため息つくだけ幸福が逃げていくぞ。
「英慈、終わったよ」
後ろから服を引っ張られながら後ろを確認する。
「はすみか。一緒に談話室で待っておこうぜ」
「うん」
はすみも最近になってようやく普通に喋ってくれるようになった。少し前までは発言の前に謎の間があって会話がスムーズさに欠けていた。
談話室、その階の一番端にある休憩室みたいなところ。かなりの広さがあって、簡単なドリンクバーが備わっている。待ち合わせで使うことが多いかな。
「あー走りたい! 最近運動してないなー」
「七海は運動神経良くてすごいよね。私はダメダメだから・・・」
「全然良くないよ!運動音痴なくらい!」
もはや嫌みだろ、それ。中学の時、七種競技で全国大会の決勝に進んだ人が言う言葉じゃないぞ。
「そうなの?英慈が前、すっごく運動神経良いって言ってたよ」
「そんな訳・・・ないじゃん。英慈はそう思ってるの?」
急に顔を赤くして、どうしたんでしょうか。照れてるのですか?こっちも恥ずかしくなってくるからやめてもらいたい。
「忘れたなぁ」
「あー出た!!英慈の意地悪!」
ゲームのレアキャラクターが出た時のような反応をしないで欲しい。
「ゴールデンウィーク明けの体育は一斉体力測定だろ?それで分かると思うぞ、はすみ」
「あ、そうだね。頑張ってね七海」
「もちろん!ウチは全力で挑むよ」
多分、はすみは七海が運動音痴と信じている。だけど、七海は体力測定で学年トップの実力を見せるだろう。
・・・はすみが人間不信になりそうだ。
談話室の中には半分も人が居ないくらいの様相。適当な椅子に腰を下ろす。
「七海、冷たいお茶が欲しい」
ドリンクバーに向かった七海に声を掛ける。
「了解。はすみは何か飲む?」
「・・・牛乳で」
「「牛乳??」」
「い、いや私もお茶で!」
「分かった!」
ありがと七海。パシリじゃないからね? それにしても・・・。
「牛乳好きなのか?」
「い、いや? 別に好きじゃないよ」
かなり動揺している様子。どうする?
1. 牛乳、嫌いなんだ・・・。
2.牛乳飲んでも大きくならないよ!
3.このままが一番良いよ!
プレイしたことはないけど、ギャルゲーってこんな感じなんだろうな。
んー・・・二番はストレートすぎだから没。一番は・・・否定してるから没かな。ん、残りは三番。今のはすみ自信を肯定してるし、具体的に言っていないからごまかしが効く。仕方ないなぁ、会話のラリーを続かせるため。そう、恥じらっている顔を見たいとか、そういう邪念は一切ございません。
「今のままが一番だと思うよ!」
「そ、そう・・・ってな、何も言ってないよ!」
「いやぁ・・・大丈夫だから!グッドラック!」
「・・・やっぱり英慈は変態なんだね。」
「いやいや。俺は何もいやらしい事は言っていないぜ?牛乳嫌いなままで良いと思うぜって言っただけでぇっイッテ!!!」
明らかに主成分が殺意の衝撃を脳天に頂きました。
「最近、本性出してきているよね・・・英慈」
「はい・・・」
そうなんです。四ノ宮に入ってから本性を少し隠してきたけど、だんだんと剥がれてきた。
でも、剥がれてくるのを止める気は全くございません。
「英慈って実はこういう人だから気にしないでね」
そんなゴミを見る目で俺を見ないで!まだ人権は保持していたいよ!
「そうなんだ・・・ごめんね」
「お、おう」
「なんで英慈が謝る側じゃないのよ!」
「イッテぇぇぇーっていちいちコップの角で脳天を刺すなよ!ハゲるだろ!」
「ハゲる前に髪とお別れ会しとくのが吉ね」
「うるせぇよ!ってお前ら終わったのか?」
「えぇ。退屈だったわ」
ゆずがあくびしながら談話室に入ってきた。こっちは必死になって解いてたっていうのに、言ってくれるじゃねぇか。
「どれくらい取れてそうだ?」
「満点ね。」
「・・・そうか」
「英慈のクラスのテストは簡単そうで良いわね」
「だってさ、七海」
「ウチらとは住んでる次元が違うから問題なしだね」
コイツはもう張り合うことを諦めたらしい。
俺はまだ諦めないからな!
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