第19話 実技試験:結果

「よぉ。元気か?変態ハーレム主」

 

なんだその不名誉極まりない名称は。

 

「お陰様で恙なく」

 

国藤慶輔である。

 

「いやいあぁ。まっさかぁ、俺のタッグすらも奪うとはなぁ。・・・・ただ、これ以上好き勝手にしたら許さねぇぞ」

 

こ、こっわーい。急に語尾変えるじゃないですか。てか、普通に喋れるなら普通に喋ってくださいよ。

 

「俺の周りのヤツに手を出さない限り、何もしないぞ」

 

そうだ。七海だけではない。元はゆずが第一の標的となっているのだ。だからこの二人を包括するワードを使って探ってみよう。

 

「・・・いい気になるなよ」

 

そう感情的に言い残し、足早に部屋を去る国藤。

 

―ピッ

 

感情的とは相反する開閉音が響く。

 

あぁ・・・。これ・・・やべぇよ・・・。柄にも合わずカッコつけてしまった罰が当たってしまった。これ、実質的に手を出します宣言されてるよね。あーあ・・・。

 

その前にテストだ。テ・ス・ト。


今、考えるべきことは電子銃のパーツだけで充分。あ、入室オッケーだって。それでは行ってきます。

 

技術分野、48点。射撃分野、16点。あ、満点は100点ね。


結果?ん・・・聞く?落ちてましたよ。はい。受かるわけないじゃないですか。


今?部屋に閉じこもっています。え、理由?うるさいなぁ!受かって当然みたいな雰囲気醸し出していたあの場から逃げてきたんだよ!!

 

実際、受かって当然だったらしいけどな!


「あら、英慈。帰っていたのね」

 

ゆずの野郎!帰ってきやがった! 

 

「ところでお得意の射撃分野の点数はいくつだったのかしら?」

 

しかも、いきなり傷を抉るような質問。

 

「ま、まぁな?まぁあれだ・・・」


―チャカチャッカチャカァ

 

手にした電子銃で遊んでやがる!!コイツ!最悪!

 

「何点なの?」

 

「・・・じゅ、じゅうろくてんです」

 

「そうなのね。私が抗議をしに行ってあげるわ」

 

「行かなくていいから!!」

 

「いやいや。私とほぼ同等なんて言って人の実力が16点なんて有り得ないわ」

 

「本当に調子乗ってごめんさい!!!」

 

「次回、頑張るように」

 

「はい・・・」

 

何でコイツは教官みたいになっているのだろうか。

 

「猛省してください」

 

「教官・・・」

 

「うむ」

 

教官ッ・・・!俺、頑張ります!

 

「・・・さっきから何してるの二人とも」

 

「あ、あぁ。色々あってな」

 

いつの間にかに七海が帰ってきていた。

 

「いやぁー・・・テスト緊張したけど無事合格できたよー」

 

ベッドにダイブしながら言葉のナイフを放つ七海。

 

「オメデトー」

 

七海も受かってるなんて・・・信じていたのに・・・うぅ。

 

「ほらー!見て!ウチのSAEG!格好よくない!?」

 

「七海。あまり見せびらかすのは良くないわ。英慈が泣いちゃう」

 

「落ちたの!?」

 

やめて! そんなに驚くと余計に傷ついちゃう!

 

「・・・はい」

 

「・・・ウチのSAEGはあげないからね」

 

「私もあげないわ」

 

「貰ったとしても使えないわ!!!!」

 

全く・・・。こいつらは俺を何だと思っているんだ? ・・・くそっ、俺も早く欲しい!

 

「・・・お風呂に入ってくる」

 

「そう。確かに、嫌な思い出は洗い流すべきね」


そうそう。まだ早い時間だけどお風呂でリフレッシュしてこよう。

 

―チャポン

 

あぁ・・・。身も体も休まる・・・。お風呂っていいなぁ・・・。


そう、この大きなお風呂がやっぱりいい・・・。

 

で。状況悪化・・・?うん。状況悪化。


というか、下がるところまで下がったっていうか。ここまで人間関係が悪化することは人生史上初めてだ。


あえて深く考えているいなかったけど、明らかな宣戦布告と違いますか?七海の件以来、何事も無事に進んでいたから、そろそろ谷があると思ってたんだ。一応、ライルにも話しておこう。


あー・・・お風呂から出たくないな。ライルにテレパシーを送ったら来るかな。


―ガラガラガラ

 

誰か風呂に来たみたい。ここの階の奴らとは会話できる程度に仲は良いから、適当に世間話でもするかぁ・・・・。

 

「・・・ライル?」

 

テレパシーをまだ送ってないのに来てしまった。・・・けど、覇気が感じられない。覇気以前の問題で生気かもしれない。


なんだか薄い紙みたいな印象を受ける。

 

「あぁ・・・英慈か・・・」

 

「ど、どうしたんだ? 腹減ったとか・・・?」

 

「これっぽっちも空いていないぜ。」

 

「そうなのか・・・」

 

シャワーを浴びるライルの背中が悲しさを全面的に訴えている。この感情表現を意図的に出せるなら俳優になれるぞ・・・。


まぁ、湯船に来るまで大人しく待っておこう。国藤を怒らせたことよりも、親友の悩みを解決する方が先だ。

 

「それで、何があったんだ」

 

「結論から言うと・・・落ちた 」

 

ふぇッ?ライルが落ちる?それって試験のこと?いやいやまさか。

 

「何から落ちたんだ?」

 

「実技試験だぜ」

 

「お、おぉ・・・」

 

俺と同じだな!って言おうと思ったけど、なんとなく無神経な気がした。

 

「いやぁ・・・俺たちは親が居ないって前言っただろ?」

 

「あぁ。一ノ宮に居たって話の時に聞いたな」

 

「俺は両親を電子銃の乱射事件で亡くしたんだ」

 

・・・電子銃で人を撃ったとしても、通常は死なない。そもそも、動きを止めるための武器であって、殺すための武器ではないからだ。だが、決して人を殺せない訳ではない。

 

「・・・」

 

「これまでは何とか大丈夫だったんだぜ」

 

「・・・フラッシュバックするとかか?」

 

「いや。俺は覚えていないし、見てもいない。だけど急に・・・手が止まる」

 

「そうか・・・」


俺から伝えることは何もない。ライルが背負っているものは決して他人が触れられるようなものじゃないからだ。


励ましの言葉も、次はいけるっていう言葉を発するのはあまりにも無神経すぎる。

 

「・・・ま、良かったぜ」

 

「何がだ?」

 

「そうだな。今これを経験できたからより俺自身を知れたし、本番でこんなことが起きちゃいけないだろ? これから改善すべきものが明らかになったってことだ」

 

本番って言葉が指すものは、特務工作員になった後のことだろう。・・・やっぱりライルは凄いな。


友達の聡明さを改めて感じる場面ではないことを知っているけれど、そう思わずにはいられない。やっぱり、ライルは天才だ。

 

「そろそろ上がるか」

 

「そうだな。今日は豚カツの気分だ」

 

「英慈は本当に飯のことしか考えていないな・・・」

 

「人生は飯で決まるって信じてやまないもので」

 

「なんだよそれ」

 

ライルが笑いながら答える。笑えるくらいには持ち直したのかな?少しだけライルの背中に覇気を感じた。

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