第12話 瑞穂ライルの告白

―ピロピロピロピロピロ


・・・眠い。

 

―ピロピロピロピロピロ

 

・・・何・・時・・・?

 

―ピロピロピロピロピロ

 

「うるさぁぁぁぁい!!!」

 

あ・・・。

 

―すぅ・・・。すぅ・・・。すぅ・・・。

 

セーフ。って誰だよこんな朝から。

 

―瑞穂ライルからの着信

 

マジ? 常識人という認識だったライルが早朝にアポなしコール。時間を見ると朝四時。マジっすか?

 

―瑞穂ライルからのメッセージ

 

「起きてる?」

 

起こされました。

 

「起きてるぞ」


二秒後、既読。五秒後、返信。

 

「風呂に来れるか? 少し用がある」

 

風呂? 開いてるのか? 朝風呂も悪くないな。そして用って何ですか・・・。

 

「分かった。今から行く」

 

二秒後、既読。五秒後。返信。

 

「待ってるぜ」

 

なんだろな。まさか・・・告白とか!? いやすまんライル。俺・・・男子には興味ないんだ。気持ちだけ受け取っておくよ。あれ、受け取ったらダメなんだっけ。

 

「何考えてるんだ英慈」

 

「あぁライル。お前とは付き合えない・・・」

 

「俺も無理だぜ」

 

「ってライル!?!?!?!」 


風呂に居るはずのライルが廊下にワープしてきた。有り得ない。これが愛の力か!? あ、でもフラれてる・・・。

 

「な、なんだよいきなり」


どうやら愛の力ではなく大声に驚いたライルが声を上擦らせる。


「いや・・・てっきりもう風呂に入ってるかと」

 

「あぁなるほど」


どうやら、ライルはまだお風呂に入ってなかったらしい。これは僕の読解能力が低かったのか。

 

「ところで話ってなんだ?」


「まぁまぁ。風呂入ってからにしようぜ」


朝風呂には誰も居ない。まぁ時間も時間だからな。四時半なんて年寄りしか起きていないだろ。


―チャポン

 

朝日はまだ見えないけど、少しづつ空は赤く染まり始めた。

 

「それで。話ってなんだ?」

 

「そんな大それた話ではないんだけどな」

 

おい、せめて失った睡眠時間相応の話でないと俺は怒るぞ。

 

「少し長くなるぜ」

 

「分かったから。いつまで待たせる気だ?」

 

「それもそうだな」

 

相変わらずの輝くライルスマイルが炸裂する。

 

「実はな。昨日は国藤のことをまるで初めて出会った人のように言ったが」

 

実は彼氏でした。

 

「同じ中学でした」

 

彼氏じゃないんかい・・・って同中??

 

「いや、中学という位置付けなんだけど俺らは施設って呼んでたな」

 

え? どゆこと。

 

「この四ノ宮って高校の中学バージョンって思ってくれたらいいかな」

 

普通に聞いたことがない。

 

「校庭もなにも学校らしいものはないけどな」

 

そ、そうなのか。深い事情がありそうだ。

 

「ちなみに通称は一ノ宮だ」

 

三ノ宮じゃないんかい。

 

「まぁゆずも国藤もそこの出身の訳で。ちなみに集められたのは孤児院に居た奴らがほぼ全員だ」

 

深い事情があった。

 

「おい、国藤は大企業の跡取りっていう話じゃなかったのか?」

 

「その通り。あいつだけが唯一の例外だった」

 

「何か理由があるのか?」

 

「勿論。あいつは特務工作員の総監を約束されているんだ。だが、いきなり大企業の御曹司が総監になったらおかしいだろ?」

 

確かに。

 

「そういうことだ。胸くそ悪いことだがな、将来を約束されているヤツはやりたい放題って訳だ」

 

改めてその現状を考えると胸くそ悪い。そんなヤツがトップになって良いのかよ。

 

「そしてここからが本題だ。ゆずはこれまで八度、国藤に告白されている」

 

「・・・・」

 

「その全てを秒でゆずは断って、流石に諦めていたと思っていたんだがな・・・」

 

「・・・」

 

「アイツは英慈を退学させる気らしい」

 

「なんで俺なんだよ!?!?!?!」


会話の流れがいきなり濁流になった。これは絶対に俺の低い読解能力のせいではない。


「すまんすまん。結論を早く出し過ぎた」

 

結論は俺を退学させる気なのかよ!

 

「まぁ。四ノ宮になって同部屋制になった。それを逃すような男じゃないんだ」

 

「つまりあの痴漢騒ぎで俺は故意的にはめられたのか?」

 

「そういうことだ」

 

「それはおかしいだろ」

 

「何がだ?」

 

「いや、あの時だれもペア相手を知らなかっただろ」

 

「知っていたんだろ。それくらいなら余裕でしそうなヤツだからな」

 

「・・・マジかよ」

 

「ま、そんなところだ。大それた話じゃなかっただろ?」

 

「・・・それは俺の人生を大それたものじゃないって言ってるのと同義だぞ」

 

「そんな酷いことは考えてないぜ」

 

「・・・とにかく助かったよ。俺はこれからも狙われるってことだよな」 

 

「ご明察。全くもってその通りだ」

 

神様ぁ・・・。高校退学は嫌だよぉ・・・。

 

「それと・・・悪かったな」


これまでの雰囲気とは違う。本当に申し訳なさそうな表情で俺を見るライル。

 

「何がだ?」

 

「言わなかっただろ? ゆずや国藤の関係とか」


何だ。そんなことか。

 

「一つ二つくらいなら誰でも言いたくないことはあるさ」

 

「・・・そうだなぁ」

 

「それじゃ、上がるか」


これ以上、この熱闘風呂に入ったらのぼせてしまいそうなので、上がることを提言する。

 

「そうだな」

 

「かなりショッキングな内容を話したと思うけど大丈夫か?」

 

「あぁ問題ない。想定の範囲内っすよ」

 

「それは随分と強気な発言だな」

 

脱衣所に向かうと話し声が聞こえてくる。そろそろ皆も起き始めた頃合いかな。


早起きし過ぎてお腹がペコペコになってきた・・・ってやっべぇよ! そんなこと考えてる場合じゃねぇえよ!! おかしいだろ! 勝手に恨まれているとかヤバくね!? あーーー・・。これはやべぇよ・・・。八回もフラれてるんだって?? 諦めろよぉ!!!!!


「あ、ちなみに昨日の傷。ゆずにバレてたぞ。」


「バレてたのかよ!!!!!」

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