第9話 事後
保健室の天井はそろそろ飽きた。意識が無い状態で発見されたらしい。無人コンビニっていうのはこういういう時に不便なのね。先生方にはコケましたって言っておいた。面倒事になってしまったけど、これに先生を巻き込むと相乗効果になってしまうよね。
「もうそろそろ帰って大丈夫ですか?」
「そうね・・・。気をつけなさいよ」
「了解でーす」
あれから3時間くらい経っているのか。顔は殴られた所が顕著に腫れている。これでよく「コケました」で通ったな。もしかしてコンビニの監視カメラで全てを知ってるけど国藤絡みだから・・・。いやいや。考えすぎでしょ。
寮の前に着いたけど凄い憂鬱だ。帰りたい・・・って家ここかよ。
えーと何号室だけ。確か7階の・・・721号室か。あったあった。角を曲がったすぐの部屋。
「ただいま」
すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・。
まだ寝てるのか! これは本物だ。中学に居なかったか? テストが早く終わったら大して眠くないくせに眠るふりするヤツ。ああいうファッション睡眠家と違ってゆずは本物だ。
でもそろそろ起こさないとな。夕食は10時までタッグで自由な時間に行けば良いけど早く食べたい。
「ゆず、起きろ」
「・・・」
「起きろー」
「・・・眠いわ」
「お腹減ってないのか?」
ぐうぅー・・・。
「減ってないわ」
ぐう・・ぐうぅ・・・・。
「そうか、減ってないのか」
「仕方ないから起きてあげるわ」
目を擦りながらあくびをするゆず。
「それで、その凸凹の顔は何かしら」
起きるなり、アザが出来ている俺の顔を見ながら何事かと尋ねる。
「いろいろあってな」
「そう。大変だったのね」
「あぁ」
何も聞かないでくれるのは助かる。ただ興味を持ってないだけかもしれないけど。
「ご飯、行かないの?」
気付けばドアの前にスタンバイしている。よっぽどお腹減ってるんだな。
「おう。少し待ってな」
ライルに連絡いれておこう。七海は・・・ちょっとやめておこうかな。勘が鋭い系女子かつ、感情的だからレストランで騒ぎ出すかもしれない。そうなったら少し厄介だ。
国藤が七海に対して何をしようとしていたかは説明するつもりだけど、この腫れた顔が彼らによって生み出されたものとは説明しないつもりだ。
七海のためにしたこととはいえ、「なんで手を出したの!」なんて怒られるに決まっている。怒り狂った七海は何回か見たことあるけどあれは人ではない。もはや鬼だ。相手に発言する隙を一切与えずに、論理的ではないにしろ感情的に納得できるような理論をマシンガンのように相手に浴びせるようなスタイルだ。思い出しただけで体が震える。あれ、男子を泣かしてたからな。何の時だっけ・・・。
「英慈。そろそろ私は怒るわよ」
果たしてゆずさんはどうなんだろう。起こったら怖いタイプなのかな。ただ、頬をプクッとさせてる姿を見る限り、怖い要素が見当たらない。
「よし。行こうか」
「遅いわ」
「悪い悪い。ライルも今から食堂行くって」
「そう。沙稀は?」
「な、七海はもう食べたんじゃないのか?」
「そう」
危っねぇ。思わず声がうわずってしまった。顔の腫れが収まるまで七海と会うのは避けることにしよう。
「食堂の位置知ってるか?」
「匂いで分かるわ。着いてきなさい」
「お、おう」
豚さんか? 自信を振りかざして進んで行くゆずさん。この子は一体何者なのだろうか。あ、食堂の案内掲示板がある。それによると・・・8階らしい。でも、あなたはエレベーターの下のボタンを今押しましたよね?
「ほら、8階だって」
「それは良かったわね」
少し乱暴な手つきで上のボタンを押すゆずさん。豚さん並の嗅覚を備えていないことに不満を抱いているのでしょうか。
「英慈―。ゆずー」
エレベーターで待っていたら後ろからイケボが聞こえてきた。ライルとそのタッグパートナーだ。初めて見るけどライルのパートナーも女子なのか。
「丁度良かったな。俺達も見ての通り今から食堂に行くところだ」
「そうかそうか。あ、エレベーター来たぜ」
8階なら階段を使えば良かったかな。エレベーターに乗ると直ぐに降りる。
すっげぇな・・・。ホテルかよ。食堂じゃなくてレストランだろ。壁は暗い色の石を使っていて、上品なランプが暖かい光を出している。これ、税金で作っているんでしょ? 大丈夫なの?
「ここにするか?」
「あぁ。俺は構わないよ」
「私も構わないわ」
―コクコク。
ライルのパートナーである青髪の女子も頷いている。
「ならここにするか」
座った机は窓際に面している。ちなみに夜景は一切見えない。見えるのは森だけだ。
「ブッフェ形式らしいからそれぞれ取りにいこうぜ」
流石ライル先輩。何でも仕切ってくれる。
「了解!」
―コクコク。
ゆずは既に行っていた。
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