第8話 国藤

ピンポーン


また七海か? 忘れ物はしていないし。ゆずはベットに足を向けている。出ろってことですか。


「はぁい。どちらさまで」


そう言いながらドアを開けると巨漢のナイスガイが立っていた。


「よっ英慈」


「ライルか。どうぞどうぞ」


「お、悪いな。お邪魔するぜ」


七海よ、これが常識人ってヤツだ。頼むから少しは見習って欲しいものだ。


「ゆずと同じ部屋で良かったな。あいつの誤解は一応解いておいたが大丈夫だったか?」


「マジで助かったよ。感謝を今すぐ曲にして贈りたいレベルだ」


本当に感謝しなくちゃな。


「それは良かったぜ。ゆずは就寝中か?」


「あぁ。ほらあそこで寝てるぞ」


「お昼寝が趣味だからな。そっとしておくか」


「起きてるわ」


起きてたのかよ。ベッドにうつ伏せになって微動だにしてなかったから某国民的アニメの主人公みたいに即眠りの世界に入ったのかと思ったよ。


「久しぶりね。ライル」


「おう。ついさっき会ってたけどな。新入生代表のスピーチは見事だったぞ」


そういや壇上で喋ってた気がするな。中身はさっぱり覚えてないけど。


「あれは事前に読む内容が書かれた紙が渡されただけよ」


そうなのか? 


「ゆずが自分で考えて話したら一言で終わりそうだからな。」


「そうね。ところで何の用かしら」


「お、そうだそうだ。俺とゆずは同じ時間割だけど、英慈って時間割どうなってんだ?」


「ちょっと待ってな・・・時間割だよな。今送信したぞ」


「分かった。確認するぜ」


便利だなぁ。端末にあらかじめ生徒全員の連絡先が入ってあるから連絡先交換とかしなくても送信先が分かる。


「体育しか被ってないな・・・」


「あんなに科目あるのに一つだけ?」


「英慈とライルはそもそも色が違うから一緒にならないわよ」


「あーそういやそうか・・。忘れてたぜ」


「何で違うんだ?」


「時間割に記載される教科は一致しているんだが、実施教室が違うんだ。バッチの色によってクラスが分かれているって感じだ」


「確かに、ランキング上位の方達とランキング最下位の俺が一緒に授業を受けれる訳がないな・・・」


「大丈夫よ。英慈にはいつかきっと多分素晴らしい才能が開花するはずだわ」


おい、凄い不確定要素がちりばめられているな。


「た、体育は一緒だからな。一緒にペア組もうぜ」


おい、凄い哀れみを感じるんだけど。


「まぁ食堂はランキングでも変わらないからな。一緒に飯食おうぜ」


「お、おう」


格差社会が垣間見えてきた気がする。


「また来るぜ。ちなみに部屋番号は703だから暇になったら尋ねてきてくれ」


「分かった。夕食は一緒に食べようぜ」


「了解! 夕食の時に連絡するな!」


そういや食堂の飯はおいしいのだろうか。これ、おいしくなかったら本気で萎えてしまうな。世界中には色々な人がいるけど、3度の飯を黒羽英慈以上に楽している人は数少ないと思う。一食でも抜いてしまったらテンション急降下になってしまう程だ。まぁ夕食の時を楽しみにしよう。


現在時刻、15時30分。暇だな。そういえば売店があるってマップにあった気がする。冷蔵庫の中身は空だし、飲み物でも買っておくか。


「飲み物買ってくるからな」


「・・・・」


寝てるな。寝顔を見ると心臓が痛くなる程の可愛さだ。いや、可愛さではなく美しさかもしれない。ここまで顔が整っているっていう表現がピッタリな人は初めて出会った。


まぁまぁ、そんなことは置いておいて。自分でも人の寝顔を見つめてるのは良くないと思う。コンビニ行こうか。


寮から徒歩5分くらいの場所にコンビニを見つけた。


遠っ! 遠すぎな? どんな大きさの校舎だよ。本当にこの広さは必要なのか? それにコンビニって掲示板には案内されていたけど、外見は街にあるようなコンビニではなく、中学校の時の売店が異常に肥大化したような店になってる。


百聞は一見にしかずってことわざがあるくらいだ。とりあえず入ってみよう。


食品に生活雑貨、漫画やラノベといった教科書とはほど遠い本も置いてある。何でも売ってんな。電化製品のコーナーに歩いて行くと冷蔵庫の姿が。冷蔵庫って売れるのか? この大きさは一般家庭用じゃないのか?


でも店内を歩くだけで楽しいな。調子に乗って何でも買ってしまいそうだからおサイフの紐を締めてこれからは行こう。


飲料は・・・一番後ろか。店内が広すぎて移動も大変だな。あったあった。お茶と水だけでいいかな。紅茶のパックも追加で買っておこう。お、緑茶のパックも近くにあるじゃん。これも買っておくか。


「よぉ痴漢魔」


ギャハハハハハハ


「性欲の塊かぁー? 世の中の秩序は守れよぉー!」


ギャハハハハ


不快なバックサウンドと共に耳につく声が聴覚に配達された。視線を声のする方へ向けるとアイツが居た。


国藤とかいうヤツだ。脳内関わりたくない人ランキング、ナンバー1の座に堂々と座っている。


「それはどうも」


ここは適当に返事してさっさと退散しよう。直感が「早く帰れ」って伝えている。


「気をつけるんだなぁー」


ギャハハハハ


取り巻きが6人程度。小バエに見えてきた。さっさと部屋に帰って嫌な思い出はシャワーで洗い流そう。


「でなぁ? クソみたいな成績の女とペアなんだよぉ」


ギャハハハハ


「多分素人なんだわぁ。俺たちの世話をさせようぜぇ!」


理解したくはないけど、男子だから話している内容が分かってしまう。何も知らずに帰れたら良かったのに。出口に向けていた足取りを180度変更させる。


「おい国藤」


「あぁ?」


「七海に手を出したらぶっ飛ばすぞ」


ギャハハハハ


「何言ってんだぁ? お前の彼女なのかぁ?」


「友達だ」


「そうかぁ。それならお前の友達は中古品にして返却するよぉ」


ギャハハ・・・ッ


バチンッッッ


あ。

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