第4話 タッグシステム

「えーそれでは新入生ガイダンスを始めます。まずはこの四ノ宮のシステムについて詳しく説明していきますね。ガイダンス終了後にホームルームにて配布される特務工作員専用携行型ホログラフィックシステム『リリス』にも同様の内容が記された資料が入っているので、分からないところがあれば参照してください」


携行型ホログラフィックシステムとはリストバンドのように携帯できるパソコンにホログラフィック機能を搭載したものだ。特殊なレンズをつけることなく、肉眼にて高解像度のホログラフィックを見ることができる。最近では個人でも所有している場合があるが、その値段から学校が生徒に配布するのは希だ。この学校では生徒全員に配布されるってことぐらいは入学前の俺でも知っていて、若干楽しみな節もある。


「まず、ランキング制度についてはもう大丈夫だとは思いますが改めて説明を・・・」


飽きてきた。真面目に聞こうと思ったけど、後で確認できるなら今聞かなくても大丈夫でしょ。パパッと終わらせれば良いのに。全てが会わなくても完結するような高度通信社会になっても式とか会議とかやりたがる。おじいちゃんに言わせれば、つまらない日本の特色が未だに息づいているってことらしい。・・・本格的に眠気が訪ねてきた。少しくらい目を瞑っても・・・。


 「・・・ランキング制度の説明はこんな感じでしょうか。それでは次にタッグシステムについて説明を・・・」


説明、長すぎません? かれこれ二十分程度は瞑想していたぞ。寝てただけだろって? ・・・はい、寝てました。少しカッコつけたかっただけなんです。


眠気は無くなったし、することも無いから聞いてみるか。


「タッグシステムとは、一組二人のタッグを組み、完全に共同生活を送って頂きます。」


あ~その話ね。聞いたことがあるような無いような・・・。それにしても、俺の場合どうなるんだろ。変態っていう二つ名が一人歩きしている中、間違いなく誰もタッグを組んでくれないだろう。唯一の理解者ライル様に頼み込むしかないな。


「部屋は勿論のこと、学業の成績は二人の成績の平均値で算出され、それが各自の最終評定となります。また、ランキング制度においてもタッグランキングが存在します。個人ランキングよりもタッグランキングの方が重視されることは覚えておいてください」


「このタッグシステムの目的は多数ありますが、一番覚えてもらいたいものは責任感の育成です。皆さんは無事、この四ノ宮を卒業すると特務工作員として社会に貢献することが決まっています。人の生死や人生を最前線で扱う以上、責任感は人一倍必要となるため、このような究極の連帯責任が発生するシステムにて、充分な責任感を養ってください」


究極すぎませんかこれ。確かに就職先は決まっているようなものだから成績なんて実際意味がない。責任感なるものは芽生えるだろうけど・・・。ランキング制度にも上位ランカーだと優遇措置があるらしいから俺とタッグを組む人は可哀想にも程がある。ライル様・・・何卒、何卒、俺とタッグを組んでください!


「英慈、タッグ組むか?」


隣から神のささやきが聞こえた。


「勿論! 頼む!!」


「声大きいぜ。あっちの教員から睨まれてる」


「あ、ああ。すまん」


入り口付近にいる教員から睨まれているけどどうでもいい。変態呼ばわりされても構わない。神様ライル様ありがとう! まつられている神社があれば五百円を奉納しに行くから!


「そこで、タッグの組み方なのですが、去年は一週間の期間内に各自自由にタッグの相手を探してもらっていましたが」


が? 不安な接続詞を使うなよ。大丈夫だよな。


「今年からは入学時点での個人ランキングから、全タッグが同順位になるようにこちらが組ませて頂きます。これは2年間、原則タッグ相手を変更することはできません」


おい! なんだそれは。全員が同じ順位になるように組むってことは全タッグが240.5位になるように。つまり、個人ランキング1位は480位と。個人ランキング2位は479位とってことか?


案の定周りも騒がしい。これは誰も知らなかったらしい。


「ライルって何位くらい・・・?」


「俺のバッチの色は紫に見えるから一応60位以内だぜ。・・・60分の1の確率でタッグになれる訳だ」


「・・・まだ可能性はあるってことか」


2年間タッグ相手を変えれないのは鬼だな。規則だから仕方ないにしろ、破局タッグが出て来るのでは。というか、同居してる時点でもはや結婚だろ。ここまできたらライルと結婚するのも良いけど美女と結婚したいです。どうせ好感度は下に振り切れてるんだ。不相応な願いをしてもいいだろう。


「それでは各自ホームルーム教室に移動してください。教室はバッチの色によって分かれています。座席のディスプレイに生徒名が表示されているので、自分の名前が表示されている座席に座ってください」


長い説明会は終わったらしい。もう疲れた。家に帰りたい・・・って家には帰れないのか。今日からは未だ見知らぬ人と寮で生活しなければならない。


「早く行こうぜ、英慈」


気がつくともう大半が移動している。


「お、了解」


それにしてもライルと知り合えたのは最高だった。痴漢騒ぎを起こしてしまった時はどうしようかと。この書き方だと誤解があるな。俺はしてないからな!? 


・・・そういや真犯人がいるとのことだけど。難攻不落な堅牢な城のようで。諦めはしないけど今日は疲れたし。一人でも理解してくれる人がいるならそれで良いかなって気がする。


「やっぱり空き教室が多いんだな」


ライルに言われて思い出したけど。そういやこの四ノ宮、まだ2学年しか存在していないらしい。


「そうだな。これも数年後には埋まってるんだろうけど」


「それまで英慈が退学しなければいいな」


「おい、確かに成績は悪いわ、騒ぎは起こすわ・・・あ、ダメかも」


あれ? もしかして退学までのカウントダウンは開始しちゃってますか?


「何かあったら言えよ・・・。凄い可哀想に見えてきたぜ」


「おいおいおい。同情するなら単位くれって話だぜ・・・」


でも単位の面は心配ないだろう。タッグで成績が決まるからな。こっちがいくら足を引っ張っても未だ見ぬタッグの相手は入試の成績が60位以内の優秀さん。頑張ってくれ! 他力本願万歳! 60位以内・・・? ちょっと待てよ。


「ライルさんよ」


「何だい英慈さん」


「俺のタッグパートナーって60位以内だよな?」


「あぁ。そうなるな」


「それって国藤とかいう奴も含まれるってことか・・・?」


「今更気付いたのか・・・。そうだぜ。英慈にとってはそれが最悪なシナリオだ」


「マジかよ!!!」


「そうじゃないことを祈っとくぜ。それじゃ俺はこっちだから。またホームルーム終わったら話そうぜ!」


「おう」


ニコニコしながら反対側にいってしまうライル。良い奴だ。大切にしよう。


えーと・・・あった。一番端の教室だな。さっきからかなり目線を感じているけど自意識過剰ってことにしとこう。


教室の前に着き、新しい環境に胸を躍らせながら、微かな不安を持ってドアを開けようとすると・・・ってマジかよ。全自動ドアかよ。

 

改めて、新しい環境に胸を躍らせながら記念すべき教室への第一歩を踏み出すと・・・。


目線が痛い。目線が痛いよ・・・。変態という前情報がある分、もはや犯罪者を見るような目が心に刺さるよ。いや、実際痴漢してたら犯罪者なんだけどね。実際してないんだけどね!? 冤罪だよ!? 


自分の席を探さなくては。えーと・・・・あった。窓際の一番後ろに位置する席。ん、故意的に左遷させてる訳ではないですよね。考えすぎでしょ。

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