第5話 七海沙稀
「英慈・・・?」
席に座ると、隣の席から男性の声帯からは発することができない高くて甘い声。何故だろう、聞き覚えがある。
「・・・七海?」
紹介しよう、俺の隣の席に座り声を掛けてきた女子は七海沙稀。中学三年間同じクラスで何かとよく喋ってた友達だ。
「何で七海がここに居るんだ? 迷子だったら才能を感じるぞ」
「違うよ! 私もこの学校に入学したの!」
「それなら教えてくれれば良かったのに」
「驚いたでしょ?」
何故か得意げに話す七海。これは俺の進学先を知りながら、あえて黙っていたパターンだな。
「あぁ。確かに驚きはしたけど、七海は体育会系だし納得だな」
「それはそうと置いといて。英慈・・・痴漢魔デビューしたって聞いたよ。間違った欲望の解放を学んでしまったんだね・・・」
七海も知っているのか! これはもう完全に広まっているな。
「いやそれは間違って・・・」
「大丈夫よ。ウチはちゃんと面会行くからね。刑期はいつまで・・・」
「捕まってないからな!? あと痴漢したってのは誤解なんだよ」
「そうなの? 良かったぁ~」
おい、胸を撫で下ろす仕草してるってことは逮捕説を信じていたのかよ。
「誤解ってのは?」
それがかくかくしかじかあってだな・・・。
「な、なるほどね。初日からそんな目に遭うなんて災難だね」
「全くだ。この不運を少しでも貰ってくれ」
「とてつもない悪運臭がするからやめとく」
ハッキリと拒絶された。なすりつけようとしたけど失敗に終わったらしい。
「それではホームルームを始めるぞ。ホームルーム担当教員の三ツ谷孝弘だ。よろしく頼む」
なかなかダンディな方ですな。世間の主婦を虜にする二時ドラの刑事役みたい。
「今日のホームルームで話すことは特にないな。デスクPCから学内ドライブに接続して新入生用のフォルダに入っている資料を参考にして履修登録してくれ。終わった奴から寮に行っていいぞ。各自机の中に入っている携行端末が部屋の鍵になるから忘れないようにな。それじゃ先生は帰るぞ」
こんなに固い即時退勤意識を持った先生は初めてじゃないのか。でもダラダラとつまらない話をする先生よりかは全然良い。
で、履修登録? マジで? 自由に科目決めることができる訳? 資料はどこよ。えーと・・・学内ドライブに接続して・・・・。あったあった。あった? 履修登録? いやいやいや。ほとんど決まってるじゃないか。履修登録とかいう甘美な響きをしやがって。自分で決めれるのは授業を受ける曜日くらいじゃないか。
「決めたー?」
どうやら七海はもう終わったらしい。曜日どうしよっかな。デフォルトのままで良い気がしてきた。
「まだ決めてない。七海はどんな時間割にしたんだ?」
「一緒の時間割にしたい?」
「いやいや、全く微塵もこれっぽっちも思っていません」
「またまたぁ。ほら、そこどいてよ」
そこどいて? いや、俺の席なんですけど・・・。あと七海さん。気付いていますか? あなたが喋る度にクラスの皆さんがこっちをチラチラ見てるんですよ。まぁ? 喋り相手が黒羽英慈君だからって理由が火を見るより明らかなんですけど。べ、別に七海がクラスで浮くのが心配なんて思っていないからね!? どうせ浮くのは自分だけで良いみたいな自己犠牲精神を持ってる訳じゃないからね!? ・・・何やってんだろ俺。気持ち悪いな。脳内発言を聴ける人がいたら卒倒してるぞ。
「ほら終わったよ。感謝してね!」
んんんん? 何が終わったって? ・・・おうまいごーっど。時間割が確定されているじゃないですか七海さん。
「これはどういうことですかね」
「少しのお手伝いをしただけですよ」
「勝手に進める事をお手伝いと同義にしてもらったら困るな」
「うるさいなぁ・・・労力を割いた事に感謝してね!」
うっわ。開き直ったうえ謝意まで求めてきたよ。なんだよコイツ。もう諦めよう。でもどの授業でも知り合いがいるのは心強い。実際には4ミリくらい感謝している。
「早く寮に行こ。ウチは部屋が気になり過ぎて昼も眠れないよ」
昼も眠れないって・・・普通じゃないか。
「あぁ。行こうか。そういやランキングって端末で確認できるって言ってたよな。」
「そんなこと言ってたね。確認してみる?」
「そうとしようじゃないか。最低限、七海よりは上であって欲しいと切実に思うよ。」
「それはそうだよね。英慈、頭いいもん」
まっ、七海よりは成績良かったからな。さてさて・・・学生証に記載されてるんだっけ。・・・おっと? ・・・おーと。
「・・・英慈。ウチもう駄目かも。これまでありがとね」
七海もかなりのダメージを受けてるらしい。
「大丈夫だ。俺もある程度は覚悟していたが想像以上だった」
「絶対ウチより高いじゃん! ホント英慈は頭良くて憧れるよ・・」
おい、滅茶苦茶ダメージ入るんだが? 全てがクリティカルで心がズタズタだよ。
「ほう、それなら勝負しようぜ。俺の方が低かったらお前が今度飯おごれよ」
「いいよ! それならウチが低かったらちゃんとご馳走してね?」
「勿論だ」
すまんな七海。勝たせてもらうぞ。
「いくよ! せーの」
「「はい!」」
えーと。七海の順位は479位。へぇ、思ってたよりも低いじゃん。確かにこれなら俺よりモ低いって思えるかもな。ん? 俺の順位? これ見たら分かるでしょ。480位。全新入生の中で最下位だ。
「ごめん・・・英慈・・・」
「いや、気にすんなよ」
おい・・・哀れみの目で見つめるな。既にズタズタな心をそろそろ癒やしてあげたい。
「これからお互い頑張ろうね」
な、たかが1位差なのにコイツ・・・大きく見えてしまう。胸は小さいけどな。
「英慈? 今何考えていたの?」
「いやいやいや、何でもないですよ?」
「そう? なんか不穏な気配を感じたよ」
これが女の勘ってヤツですか。怖いな。気をつけるようにしよう。
「ずっと廊下にいる訳にはいかないだろ。早く寮に行くぞ」
「そうだね。部屋の雰囲気とか気になるし。オシャレかなぁ~広いかなぁ~」
謎のメロディに乗せながら願望をつらつらと吐き出す七海さん。学校の寮にハイクオリティを求める訳ではないけど。Gが出ない程度の綺麗な部屋であっては欲しい。そういやタッグパートナーと暮らすのか。まだご対面してないし、誰なんだろうな。
・・・・!?
気付いてしまった。
ランキング480位と組むのは1位。それってつまり・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます