第3話 ケツの真相。あと、学校選びの失敗が否めません
意識が完全に飛んでいた入学式の中で唯一覚えているのが新入生代表として先程不可抗力痴漢行為の相手であった彼女が登場したこと。名前は桒野ゆずは。さぞかし超優秀なのでしょう。レベチ過ぎて二度と関わることはないのでは? 桒野さんにとっても好都合に違いない。少し寂しいけど・・・。
入学式の前に引き起こした騒ぎは噂として早速広まっているようで。多目的ホールに移動するまでに何回もチラチラ見られている。俺の噂を餌にして友達作りに精をだしているに違いない。感謝してよね。あっ涙が・・・。
多目的ホールに到着するとパイプ椅子が並んでいる。来た順に座るようにとスクリーンに映し出されているのでその通りに座ると既に来ている右隣のゴツい男子に話しかけられた。
「よ。俺の名前は瑞穂ライル。呼び名はライルでいいぜ。よろしくな」
おぉ! こんな僕にも話しかけてくれるなんてかなりの人格者に違いない。こちらも自己紹介しなくては。
「俺の名前は黒羽英慈。こちらこそよろしく」
「お、話題の痴漢魔ご本人の名前は意外と格好いいな!」
あーやっぱり知っていますよねー。悪事千里を走るって言うけど、この場合一里程度だから伝わってて当たり前ってことですか。ここはわざとじゃないことを伝えて変態ではないことをアピールしなければ。
「それが、わざとじゃなくて・・・」
「知ってるぜ」
ん・・?
「実はあのバス降り場でずっと隣だったの気付いてなかったか?」
いや知りませんでした。確かに周りがゴツい男だったのは記憶してたけど。そのゴツい男の中の1人だったってことか。
「そこで近かったから見えてしまったんだよ・・・」
そうか! 近くにいたから現場の状況も知っているし。きちんと理解してくれる人がここに!
「ケツに手が伸びて揉んでいるところを・・・」
「ありがと・・・っておい! 揉んだのは胸だよ!」
涙ながらに事実訂正ツッコミをする。なんだか自分で言ってて悲しいな。
「違うんだな、それが」
「は・・・?」
何を言っているのだろう。全く話が理解できない。
「知ってるか? あの時お前はゆずのケツに触れてないんだぜ」
「え?」
どうして・・・? あの時きちんと変態って言われてたし、触ってしまったのでは? っていうか胸だったのでは?
「マジ。ちなみにお前が触っていたのは俺のナイスヒップだ」
はぁぁぁ??? 結局俺が触っていたのは男の尻なのか? マジかぁ。それはそれでショッキングな事実な気がする。
だとしたらだ。
「それなら彼女は触られていないんだよな? でも俺は変態って言われたぞ」
「つまり別の人に悪意を持って触られていたんだよ。ちなみに俺はバッチリ見ていたぜ。そして英慈に変態って言ったのはゆずの人違いだ」
「マジすか・・・」
マジかぁ!!!!! 俺は勘違いで学内ヒエラルキーの最底辺になりさがってしまったのか? でも冤罪だからまだチャンスはあるのでは。これからはこの冤罪を広め、変態クソ野郎ではないことを積極的に広めなければ。でも冤罪ってことを証明する為には真犯人を捕まえなければいけない。努力は嫌いだが、この場合努力したら得られる結果が大きすぎる。
「ライルは真犯人が誰か知っているのか?」
「大体な。見間違えでは無ければ真犯人は知ってるぜ」
「頼む。教えてくれ」
「教えてもいいが、多分何もできやしないぞ」
「何故に・・・?」
「ま、見たら理解するか。ほら、最前列の左から2番目に座っている奴だよ」
ライルが指す方向を見ると確かに男が座っている。うーん、あいつ居たか? 覚えて無いわ・・・。でも何も知らないよりはマシな訳で。ところで何故、何もできやしないのだろう。見ても理解できないのだけど。
「人は分かったけど何故、何もできやしないんだ?」
「それは男子の新入生代表かつ、大手銃製造メーカー<国藤>のご子息だからに決まっているだろ」
なにそれ、初耳なんすけど。大企業の跡取りであってさらに成績優秀。そんな人間と遭遇しない人生を送ってきたはずなのですが。これまでの人生を構成してきた歯車達はどこへ?
「入学試験での成績はゆずに次ぐ二番目、つまりこれから発表される一年生のランキングでは入試結果の順番がそのまま採用されるから二位。ランキングが何よりも重要視される四ノ宮では<ランキングが高い奴が正義>だから教員に直訴してもかえって英慈が本格的に捜査される羽目になるかもな」
「ま、その前に四ノ宮は警察が主として建てた学校だ。警察と蜜月の関係にある国藤のご子息ともなれば彼に教員は何もできないだろ。実際、この学校の教員の大半が警察幹部のOBって話だぜ」
マジっすか。ランキング制度なんて知らなかった。入学まで何も調べなかったっていうことは伏せておこう。くそ、一度くらい学校名でググるべきだったか。
そんなことはどうでもよくて、つまりランキング上位かつ、教員が味方の国藤のご子息には俺みたいな凡人はどうしようもないと。ただただ冤罪かぶってろってか。人として最低限しか持っていない反骨精神が湧き上がるけど、最低限は最低限らしく、怒りではなく諦めの方が心の中を支配している気がする。
ところでライルはなんでこんなに知ってるのさ。しかもあの桒野ゆずはとか言う金髪美少女を下の名前で呼んでるみたいだし。
「よく理解したけどライルは何故そんな知識があるんだ? あと桒野さんとは知り合いなのか?」
「ん? 一を聞いて十を知るって言うだろ。あとゆずは・・・・幼馴染みって感じかな」
あ、左様でしたか。ちなみに黒羽くんは十を聞いて一を知るタイプ。まぁ何も調べなかった俺が悪いんだけどね。人間、後悔から学ぶことは大切だからね! これからは書類とかはしっかり読もう! 小学校低学年並の目標を掲げていることは自覚してます。
「ちなみに英慈は自分のランキングがどのくらいか予想しているか?」
えーと確か新入生は四百人ぐらいだった気がする。当然のことながら下半分に位置しているだろう。そうだな・・・予想よりも格段に低かったら流石に恥だから三百位くらいが妥当か? いや、保険には保険をかけて三百二十位くらいで。
「そうだな・・・三百二十位くらいだと思うな。」
「お、それなら残念なお知らせだな。俺の記憶が正しければそのバッチの色だと四百二十位から四百八十位までのはずだぜ」
「ちょっと待ってくれ、一年生の総数はいくらだ?」
ライルは遂に笑い出した。
「本当に何も知らないんだな。いいぜ知ってることなら何でも教えてやるよ。入学者数は四百八十人のはずだぞ。ちなみにバッチの色分けは冠位十二階を参考にしてるんだとよ。あ、冠位十二階って知ってるか?」
「流石に俺でも知ってるな。聖徳太子が定めたとかのやつだろ?」
ま、詳しくは知らないけどね。多分、階級によってもらえる冠の色が違うってやつでしょ?
「そうそう。流石にここに入れるだけの知識はあるか。」
恥ずかしながら求められている知識量は保有していないかと思われます。中学時代は先生に媚びを売りまくり、テスト前になったら少し勉強するだけでそこそこの成績が頂けました。ここに推薦入試で入学出来たのは学力ではなく、先生に媚びを売ったご褒美なんです。いやもはやご褒美はいりません。完全に学校選びに失敗している感が否めない。
大体全員が座ったタイミングで眼鏡を掛けたおっさんが入ってきた。多分教員なんだろう。媚びを売るのが難しいタイプに見える。媚びを売りやすいのは異性かつ年寄り。これは中学3年間の経験上間違いない。雲行き怪しいな~・・・。
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