第2話 入学から数分でヒエラルキー最底辺に成りました
黒羽英慈は努力が嫌い、と自己紹介をしておきたい。勿論、一般的な高校に進学せず、推薦入試にて四ノ宮に入学したのも努力をしないため。公務員確定ルートを見逃すなんて考えられない。だけど実際に受かるとは想定していなかったわけで。合格通知が受信箱にあった時は相当驚いたよね。推薦入試の内容は書類審査、基礎体力測定のみ。合格したってことは何かしたの才能があるのでは、と勘ぐっているけど。おい、無駄って言うな。確かに才能の2文字とは無縁な人生を過ごしてきたけど無いものに惹かれ、憧れるのが人間なんだ。
入学式。四ノ宮が入学者に「普通の高校」ではないと思い知らせる日である。新入生の為の四ノ宮への直行バスが最寄り駅から出発し、1時間後に正門前に到着する。到着し、バスのステップを降りた瞬間に新入生は広すぎる校舎を目の辺りにし、驚愕するのである。黒羽英慈も例外ではなく、その大きさに唖然としている。
「いや、この広さはバカでしょ・・・」
うん、そう呟かないとやってられない。周りも同じように驚愕で口が緩くなっている。
それにしても身動きが取れない。降りるも呆然としてバス停付近で立ち止まる新入生で混雑が発生している。仕方ないから人混みに身を任せていると、後ろからの不可抗力な運動エネルギーによって手には柔らかいが奥行きがなく、固い感触が。
大方、男の尻だろう。実際、僕の周囲には男しかいない。そして、至極残念だが僕は同性愛者ではない。何でここまで来て男の尻を触らなければならないんだよ!
1秒でも早く男の尻から手を離したいため、必死に手を上に挙げようとするけど中々挙げれない。
すると、右手の袖を引っ張られるような微かな感触が・・・。まさか尻の持ち主か!?
多少の無理をしながら首を曲げて引っ張られている方向を向くと・・・誰も僕に用がありそうな人はいない。
あ、いた。前言撤回です。さっきまで見ていた場所を0度とした場合、そこから160度右回転、目線を30センチ下げた先に彼女はいた。彼女の胸は豊かではなく、俺の手は彼女の胸の位置にいた気がする。そう言えばそんな揉み心地だったような・・・。
もう状況把握は万全だ。やることは一つ。
「すみません!」
・・・・あれ?
周りの人が「何コイツ」みたいにひそひそ話をしているのは聞こえるけど。俺の周りから人がいなくなるのは感じるけど。
とにかくこの状況を打開しなければヤバい。
「・・・わざとじゃなくて。とにかくすみません。」
返答か怒りの鉄拳を頂けると幸いなのですが。反応すら頂けません。
「あの・・・?」
覚悟を持って瞑った瞳を開け、目の前にいる金髪で人形のような彼女に目線を合わせると彼女は手でこっちに近づけみたいなジェスチャーをした。もっと近づけって? よく分からないけどとりあえず近づくと、彼女は俺の耳に口を近づけこう言った。
「変態」
んんん! そんな近くで囁かれると新たな性癖の開拓が・・・。
そんな場合じゃなくて、今後の為にもせめて彼女の名前だけでも聞かなくては。ってもういない?
目の前から金髪美少女が消えている。慌てて探すと・・・いた。
「名前でも・・・」
言ってる途中で小柄な金髪少女は見えなくなってしまった。騒ぎで集まってきた人混みをくぐり抜ける姿はさながらリスのよう。そして騒ぎの中心に一人となってしまった黒羽英慈は完全に変態扱い。入学式が始まる前から学内ヒエラルキーの最底辺になりさがってしまった。そんなことなら大胆に揉めばよかった!
「それでは、四ノ宮入学式を閉式致します。新入生の方は係員の誘導に従って第三多目的ホールへ移動してください」
気付けば入学式は終わり、次の行動を示すアナウンスが体育館に鳴り響く。完全に、完璧に式の内容を覚えていません。これからの暗い学生生活について考えていました。攻略サイト、どこですか?
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