指定校推薦で超エリート:特務工作員を輩出する学校に入学したけど色々危機です!~公務員確定ルートから外れるな~

冬峰裕喜

第1話 背景

2092年現在、数十年前までのスタンダードな「日本人」が大分部として構成する日本国は既に崩壊していると言えるだろう。


2053年に当時の政府が日本を「移民優先受け入れ国」と位置づけ、これにより日本国籍は世界で最も取得しやすい国籍と言われるようになった。国民の目から見ても、超少子高齢社会を解消する唯一の策であることは火を見ることよりも明らかであった。


以後、日本は急速な、急激なグローバル化を遂げた。


数十年前の「日本人」が、現在の光景を見たら驚愕するだろう。街を歩けばあらゆる肌の色をした人々がいる。1時間あれば各国の郷土料理専門店を見つけ、様々な民族衣装を買い込むことができるだろう。


また、そんな社会に合わせて法律も変化した。銃刀法などは跡形もなく、自衛の為ならば、鉛の弾を撃ち出す実銃や、狙った相手に電撃を放出し、動きを止める電子銃も個人単位での所有が許可されている。


日本のイメージであった「治安の良い国」は遙か彼方へと飛び立ち、「治安が悪い民族多様国家」というレッテルが住み着き始めた。


治安が悪くなってしまった原因として、国家のスタンスが格段に変わってしまったことが挙げられる。経済学者であるアダム・スミスが唱えた「小さな政府」という言葉を知っているだろうか。簡単に説明すると、政府・行政は市場に介入せず、安全保障や社会保障、司法などの最低限の役割を果たすべきだという思想である。多少の違いはあるが、第二次世界大戦後から日本はアダム・スミスの理想を体現化してきた。これは現在にも通じており、あるところを無視すれば、アダム・スミスの理想は日本にて生きながらえている。


その「あるところ」とは社会保障の面だ。「移民優先受け入れ国」と位置づけると同時に、他国籍の人でも永住権の確保が安易にできるように改憲を行った。これ故、社会保障制度を適用する「人」の選別は困難を極めた。例えば、市民権を保持している「人」のみを対象とした場合、日本には二億六千万人が居住しているが、そのうちの三分の二しか市民権を保有していないという。


つまり、三分の一は社会保障制度の枠組みから漏れてしまう。数が少なければ何かしらの解決策があっただろうが、余りにも社会保障制度が抱えることができるイレギュラーのキャパを超越していた為、このようになった。つまり、「社会保障制度の極小化」だ。国民保険、国民年金、生活保護などの様々な社会保障制度が廃止された。


これにより、社会保障制度で守られてきた命は消滅を余儀なくされ、「生きるため」が犯罪理由の大部分を占めることとなった。先程説明した銃刀法の改正などは、国民の自己防衛本能が大いに感化されたことを如実に物語っているものであろう。


そして遂に、指数関数的に加速する治安の悪化に終止符を打つべく、日本政府は警察組織の改革を行った。大きく変わったところは、対症療法的な犯罪への対応を改善すべく、特務工作員制度を設立したところだろう。特務工作員の実務は「積極的な犯罪阻止」のポリシーから、潜入捜査がメインとされているが、あらゆる事件への対応が想定されている。


つまり、エリート集団そのものである。そのため、特務工作員になるためには一般の高校に進学せず、中学校卒業後から国立機関「四ノ宮」において、特殊カリキュラムに基づいた4年間の教育が施された後に特務工作員として任務に就くことになっているる。


そう、予定なのである。四ノ宮への記念すべき第一回生の入学は2091年となっており、今現在までの時において特務工作員という職業は存在しない。そして2092年の春、四ノ宮は第二回生を迎え入れようとしているのである。

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