第12話 バールのような物

#12.バールのような物


 うーん、私は悩んでいた、自分の武器をどれにするかを……

確かに最強の剣と盾があるが、最強の強さでついやり過ぎてしまう事が多々ある為、手頃な武器を護身用に持つことにしたのだ。

もちろん買うのはいつものあの店である。

ある品に疑問を覚えた私は店員さんに質問する事にした。


「バールのような物ってなんですか?」

「バールのような物はバールのような物ですが」


 私だってバール位は知っている。

細長い金属製の工具で、何かをこじ開ける時に使う奴だ。

しかしようなってなんですかようなって、そんな曖昧な品で戦えません。

結局店員に押し切られる形で買ってしまったバールのような物、その正体は謎である。


グギャギャ


 さっそく現れましたよ実験体のゴブリン君。

ゴブリンの一撃が私をかすめるがこんなのはただのかすり傷だ。

私はバールのような物を構えるとゴブリンに一振りした。

ゴブリンはいつもの断末魔をあげると跡形もなく消滅した。


「やったー!」


 私はつい両手を挙げてバンザイして喜んでしまった。

その手に握られたバールのような物を手放して。

バールのような物は宙高く舞い上がると私めがけて落ちて来た。

気付いた時には時既に遅し、バールのような物は私の頭上目掛けて落下した。


「痛っ!?……くない?」


 痛い所か何も感じなかった。

それどころかゴブリンに受けたかすり傷も消えてしまったのだ。

ど、どういう事?と頭にはてなマークを浮かべた私は、何気なく杖の様にバールのような物を地面に突き立てた。


「うおおおおおおおおおお!?」


 地面に刺さったバールのような物はそのまま地面に埋まってしまった


「まだちょっとしか使ってないのに……」

 

毎回不思議アイテムを買ってはいるがタダではないのだ。

ちゃーんと依頼なんかをこなしたり、モンスターを倒したりでお金を稼いでいる。

それが意外な性能だったとはいえ、たった二回で消滅してしまうのは凄く勿体ない気分になる。

 私が倒れ込んで休んでいると、バールのような物は地面からスポンと抜け出て来た。

更にその穴からは水が出て来た。

つめたーい奴だ。


「ラッキー、丁度喉が渇いてたんだよね……て、まさか!」

 

 そう、これはバールのような物であってバールではない。

つまりバールのような形をした何か、なんにでもなってくれる便利アイテムなのだ。

うーん、これはいい買い物をしたぞ、とテンションが上がる私。

 しかし次の村を見た瞬間私のテンションは急降下した。


「め、飯……」


枯れた井戸、不毛な大地に育たない作物、空腹で倒れ込む村人、まさに壊滅状態であった。

ピコーンと閃いた私はバールのような物を地面に突き刺した。

するとバールのような物は地面に埋まり、軽い地震が起きた。

その後井戸からは水が噴き出し、作物は生き生きと実り、倒れていた村人も元気になって走り回っていた。


 これで、よかったんだよね。

私はちょっと勿体ないなぁと後悔しつつも村人の笑顔を見て満足する事にした。

もしかしたらこれもバールのような物のおかげかもしれない……かな?








グアアアアアアアアアアア!


魔物の断末魔が聞こえる。

それを起こした青年の手にはバールのような物が握られていた。


「さすが村に伝わる伝説の武具だ」


青年はバールのような物で敵をばったばったとなぎ倒していく。

剣と魔法のこの世界には勇者と魔王が存在する。

自分が勇者かは分からないが、多分一番近い存在なのだろう。

 そして魔王の城に乗り込み数時間後、ようやく最深部までたどり着いた。

魔王とおぼしき影の前に一体のモンスターが現れる。


「こ、こいつは……!?」


 皮膚は殆ど無く骨ばかりのアンデット系のモンスター、呪文等の高等な行動はできないだろうがその分腕力はありそうだった。

俺はバールのような物を振り下ろすとモンスターに当たった。

どうやら素早さも足りない敵の様だ。

楽勝だな、と倒したつもりで俺は奥にいる魔王に足を向けた。

 

 だがその時である。

バールのような物が敵に当たった瞬間、眩い光がモンスターを包んだ。

受肉したアンデットモンスターはかつての全盛期の姿を取り戻していた。


「しまっ―」


油断していた俺は元アンデッドモンスターに八つ裂きにされていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る