第10話 逆転生の蜘蛛の糸

#10.逆転生の蜘蛛の糸


「ここは・・・?」


私は何もない黒い空間にいた

足下にはドライアイスの様な白い煙が立ち込める

周囲を見渡すと私以外にもちらほらと人が居た

なんでこんな所にいるんだろう・・・

話は少し遡っていつものお店


「お願いします!元の世界に帰る道具を売ってください」

「構いませんが・・・」


店員は店の倉庫に行くと虫かごの様な物を持ってきた

当然中身入りである 蜘蛛だ


「ひぃっ!?」


思わず身を引く私

小さいのでも駄目なのに手の平サイズの蜘蛛である

私じゃなくてもビビるサイズだ

しかし店員は微動だにしていない


「この蜘蛛が元の世界に帰してくれますよ」

「ほほほほんとうですか?」


ビビる&疑心暗鬼な私

店員が虫かごを開けると、中の蜘蛛が私の手を伝っていく

そのもぞもぞした感触とショックから強い眩暈が私を襲う

そして私は気絶した・・・



そして今に至る訳である

周囲を見渡すと学生服を着た青年や

中二病臭いコートを着た青年

魔法少女のコスプレ?をした少女等

明らかに現代人っぽい人達が集められていた


「マジックドーン!」

学生服の青年が叫び虚空に手をかざし闇を打った

放たれた魔力の塊は闇に消えていく


「呪牢獄炎波!!!」

同じくコートの青年が闇を打つ

漆黒の炎が闇に放たれたが同じく消えていく


「ジャスティスシャイニング!」

今度は魔法少女風の少女が杖を振るう

杖の先端から眩い光が放たれるがこれも闇に吸い込まれてしまった


どうやら彼ら彼女らは異世界転移・転生で

何かしらの能力を与えられた人達らしい

私も剣で闇を切るが効果も無くカウンターも減っていない

うーん、どうしたもんか


私が座り込んで考えていると目の前に紐・・・というより糸が現れた

垂れて来た糸はロープの様に太く頑丈そうで、

何人かは支えられそうだ

そう考えていると頭上から声が聞こえた


「私は光の女神、蜘蛛を殺さなかったやさしき異世界者よ、

 元の世界に帰るチャンスを差し上げましょう」


がやがやと騒ぎ始める人達、それも当然である

元の世界に帰れるのだから


「この蜘蛛の糸は数人程度なら登れますが、多すぎると当然切れます

 慌てないでゆっくり登って下さいね」


女神の声が終わり、天から地上まで蜘蛛の糸が垂れて来る

するすると降りて来る糸 

それは神秘的な輝きを放っている



「・・・・これ昔話で聞いた奴だ」


ふと思い出した私

確か欲張って全員一気に登ろうとした結果

糸が切れてしまうという展開

そうはさせまいと私は先導役を買って出た


「みなさん!ここは順番に少しずつ渡りましょう!」

その時不思議な事が起こった

誰も糸に近づこうとしないのだ


「だってチート能力あった方が優遇されるしモテるし・・・」

とぼやく学生服の青年


「どうせ戻っても無職でホームレスだしなぁ」

中二病から素に戻って既に人生諦めてた青年


「元の世界の地味子に戻るなんて絶対嫌!」

余程元の世界の自分が嫌なのか頭を抱える魔法少女


そう、みんな転生・転移前は碌でもない人生だったらしく

元に戻りたくない人が多数派なのだ

チート能力が与えられていれば尚更である


「じゃ、じゃあ私も・・・」


私含め登りかけた数人が糸から降りて来る

そう、私達日本人は良くも悪くも流されやすいのだ


「え、みなさん戻らないんですか?」

頭上に?を浮かべる女神さまと蜘蛛


「それより早く元の異世界に帰して欲しい」

みんな口々にそう言った

それから糸が引き上げられると眩い光が私達を襲う


ピカッ!


「うっ!」

私は再び気絶した


目を覚ますといつもの店の中だった

どうやら眠っていたらしい

周囲を見回すが蜘蛛も他の転移転生者もいない

あれは夢だったのだろうか


足下にある蜘蛛の糸を見落とした私は

実際にあった事だと気付く事無く店を後にした

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