第9話 ハッピーエンドの魔法の杖
#9.ハッピーエンドの魔法の杖
魔王城を探して幾日か経ちまして、
ヘロヘロな私の前にいつもの店が現れました
そこで疲れからかお店に並んだ杖に倒れ込んでしまう
「お嬢さんお嬢さん、今ならワタクシがお買い得ですよ」
「へ?」
その声の主は女性の声だったがいつもの店員の声ではない
「ここですよ、ここ」
声のする方向に目をやると寄りかかった杖があった
まさかこの杖が喋ってるとでも言うのか
「その杖ならセール中で半額ですよ」
「買った!」
即答する私
何故ならばその杖の名前が「ハッピーエンドの魔法の杖」だからだ
ハッピーエンド、つまり魔王を倒して元の世界に帰れるとか
それが無理でも異世界の王子様に見初められて結婚とか
胸躍る良い展開が待っているのだ
「じゃあその杖の説明を・・・」
バタン!
杖の説明を店員が始める前に私は店を出た
早くこの杖を自分に使ってみたい!
そんな欲求に逆らう事はできないのだ
じゃあ早速・・・ほいっとな
私は杖を自分に向けて振った
数分待つ・・・しかし何も起こらない
私は杖に話掛ける
「あの~、ハッピーエンドはまだですか?」
「焦らないでマスター。もうそろそろですから」
何か嫌な予感がする
その予感は的中した
ギャアアアアアアアアアス!!!
「ぴゃああああああああああああ!?」
私は驚いた
スライムとか序盤の敵しか生息していない筈の
地域で、終盤に出てきそうなドラゴンが現れたのだ
私は震えながらも最強の剣と盾を取り出す
まず私は盾を前面に押し出し、剣を使うチャンスを伺った
ドラゴンの攻撃
猛烈な爪の一撃も、灼熱のファイアブレスも全て盾で防ぐ
最初の時同様、私にはかすり傷も軽いやけどすらもない
まさに完全防御だった
攻撃を続け疲れ切り、攻撃の手を休めた瞬間
「やああああああああああああ!!」
私は剣に持ち替えると、ドラゴンに切りかかった
が
足下の小石につまずいてしまい、
剣は鼻先を切りつけただけだった
しかしさすがは最強の剣である
それでも瀕死レベルのダメージを与えていた
「それじゃあとどめを―」
「待って下さい!」
杖が私を引き留める
「なんで止めるんですか!?」
「あのドラゴンの後ろ、よーく見て下さい」
私はドラゴンの後ろに回り込むと大きな巣と卵があった
「もしかして・・・お母さんドラゴン?」
「その通りです」
どうやらこのドラゴンは巣と卵を守っていただけらしい
ここで倒してしまうのは少し後ろめたい気持ちになる・・・
私は剣を収めた しかし・・・
「ねぇ、最初はここにドラゴンとかいなかったよね」
ちょっと威圧的に杖に尋ねる私
しかし杖は悪びれる様子もなく答えた
「はい、そうですが?」
「なんでわざわざこんな事をしたの!?」
「それは勿論ハッピーエンドの為です」
「はぁ?」
「マスターは魔王討伐を目指しているとか・・・
つまり今後も多数のモンスター達と戦う訳ですよね?」
「そ、そうだけど・・・」
「その際モンスターを倒すという事に善悪の葛藤を抱く訳でして、
そのままでは罪の意識に囚われバッドエンド直行です」
「・・・・・・」
「なので早めにその感覚に慣れて頂きたいと思い、
このようなイベントをセッティングさせて頂きました」
「はぁ・・・」
なんかよく分からないけど、これまでの展開はこの杖が
わざと起こした物らしい
「で、この後どうすればいい訳?」
「はい!まずあのドラゴンが村を襲います
そして卵の存在を知りつつも今度は泣く泣く止めを―」
そぉい!!!
ロクでもない杖だと感じた私は、杖の話を聞かず
遥か遠くへ杖を投げ捨てた
さらばハッピーエンド厨の杖
【カウンター】剣「600」盾「200」
―
「いたたたた・・・」
杖はかなり遠くまで投げ飛ばされたが、傷一つついてない
「ハッピーエンド検定S級のワタクシに撤退の二文字はございません」
杖は浮遊すると少女の行くであろう村に先回りした
そして先程のドラゴンと巣と卵を召喚する
「なんでこんなところにドラゴンが!?」
「ワタクシの計画通りです」
「杖が喋った!!!?」
驚く村人達、しかし杖は無視して話し続ける
「ドラゴンとはいっても手負いですからねー
村人の皆さんには少し麻痺ってて貰いますよ」
シュビビビっ!杖から謎の光線が放たれ、村人は動きが取れなくなる
数日後
「遅いですねー」
杖は待ち続けた、飲まず食わずで
村人も待ち続けた、飲まず食わずで
「別の村に行ったのかもしれません、場所を変えましょう」
ふわふわと浮かび別の村へ向かう杖
そしてそこには麻痺で動けない瀕死の村人と
傷の癒えたドラゴンがいた・・・
杖が村に振り向いて一言呟いた
「致し方ない犠牲、コラテラルダメージと言う奴ですね」
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