第7話 ラスダン直通のトンネル

#7.ラスダン直通のトンネル



・・・・


私は今灰色の脳細胞をフル回転させ

ある事を考えている



そのある事とは・・・


旅の目的だ



私は今までとりあえず旅を続け

手当たり次第にトラブルに首を突っ込んでいた

しかし私は屈強な戦士になりたい訳でも無いし

世直しの旅をしているどこぞの副将軍様でもない

第一の目標は元の世界に戻る事なのだ・・・


そこで私の導き出した結論は―


魔王を倒す事



ゲームならクリア条件はラスボスの魔王討伐である

どうやらこの世界には勇者とやらがいないらしいので

私がやるしかないのだ

しかし魔王の城とやらはかーなり先にあるみたいである

つまりとんでもなく遠いのだ


「こういう時こそあの店よねー」


あの店を使い過ぎて慣れてしまったのか

もうあの不思議なアイテム屋を不思議とも思わなくなっていた

しかし今回はいつもと少し違った展開だった


「いらっしゃいませー」

「魔王倒せるアイテムってありますか?」


「・・・・・・・」

「ないんですか?」


「実は今回はお客様に頼みたい事がありまして~」

「(ないんだ・・・残念)」


「この物資を届けて頂きたいんです、”魔王城手前の村まで”」

「はいはいわかりましたよ・・・・て、はいいいいいいいい!?」



私は驚いた、二つの意味で

この店員は今魔王城手前の村までと言ったのだ

つまりラスダンが目の前な訳で、

ラスボスの魔王が目の前な訳で、

魔王倒して早く元の世界に帰れる訳で、

つまり目から鱗なお願いなのだ


皆は当然思うだろう、ただのJKの私が魔王やその配下に勝てるのかと、

しかし私には”これ”がある

最強の剣、そして最強の盾だ

私は勝利を確信していた

そんなはしゃいでた私に水を差すが如く店員さんがこう言った


「じゃあ行き帰りはこのトンネルを使って下さい」


店員の指さした先にはいつのまにかトンネルがあった

現代風の物で照明も完備されている

そこには運んで欲しいであろう物資がリヤカーに載せてあった


「これを運べばいいんですね?」

「はい、お願いしますー」


「(結構重そうだな・・・)」

等と考えながら進むとトンネルの中で不思議な事が起きた

入った瞬間、空間がぐにゃりと曲がり、一瞬で出口に着いたのだ

これはSF等でよく見るワープという奴なのだろうか

等と私が驚いているとそれを覚ますかの様に声を掛けられた


「最後の村へよーこそ、お姉ちゃん」

その一言を発したのは年端もいかない幼い少女だった



少女に村の中央まで案内されると人が群がって来た

「飯だ!飯だ!」「食料よ!」「衣服もあるわ!」

どうやら皆この”補給物資”が目当てらしい


しかしどうもふに落ちない点がある

私は当然の疑問を少女にぶつけてみた


「あの、お嬢ちゃん、なんでみんな自分で狩りや農耕をしないの?」

「・・・・・・」


少女は何も答えない


「こんなところに住んでるんだからみんな強いはずでしょ?」


ラスダン前なんだから強くないと皆碌に生活もできない筈だ

こんなに村人が生きているんだから皆場所に合った強さを

持ち合わせている筈だ

そんな風に村の考察をしていると、遠くから男の人の声が上がる


「魔物がきたぞー!急いでトンネルへ逃げ込めー!」


皆が慣れた動きでトンネルへ向かっていく

まるで学校の避難訓練の様だ


「お姉ちゃんもきて!」

「え!?」


私は少女に服をぐいっと引っ張られると

手を引かれトンネルへ走らされた


トンネルは再びぐにゃりと曲がると

村人と私をワープさせた

ワープ先は私が最初にトンネルに入った入り口である

なーるほどざわーるど、謎は解けてすべた

よくよく考えたらラスダン前に住んでるだけで強くなる訳もない

その理屈が通るならとっくに彼らが魔王を倒してる筈だ

村人が無事だったのはこうやって逃げていたからなのである

トンネルはあんのじょう消えているので追われる心配もない

どうやらあの店員と定期契約を結んでるらしく、

都合よくトンネルが消えたり出たりしてくれるらしい


「あれ、でも補給物資は・・・」

「心配ないよ、お姉ちゃん。向こうにも何人か残ってるから」


どうやら向こうの村に数人残り補給物資を隠してるのだとか

これだけの村人でやり過ごすのは不可能だが

数人ならばという作戦なのだろう 

いざ見つかっても被害も最小限で済む


「でもなんで皆引っ越さないの?」


当然の疑問である

わざわざ危険な魔物の巣くうラスダン手前の村にいるのか

すると今度はこの村の村長さんが教えてくれた


「いずれ来る伝説の勇者様の為に、ですよ、お嬢さん」

「勇者・・・様」


本当にそんな存在がいるのなら早く魔王討伐して欲しい物だが

現実は非情である、そんな都合の良い存在はいない

腕利きの冒険者が何人も挑戦しているのに、この村にさえ誰一人来てないのだ


「おねーちゃん」

「何?」

「勇者様は・・・いつか来るよね?」


不安そうな顔で少女が尋ねる


「うん、いつか辿り着いてみせるよ・・・」


誰かになんて任せておけない

この最強の剣と盾にかけていざ!




と思ったが、どんなチートアイテムも使いこなせないと猫に小判、豚に真珠である

幾らトンネルでショトカしたところで、魔王どころか村周辺の魔物すら倒せないだろう

私は武者震いしながら、もう少し異世界ライフを続け

自身のスキルアップを図る事にした


この少女の笑顔の為にも半端な覚悟じゃダメなんだ



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