第6話 元気な果実の種

#6.元気な果実の種




「はーやくおーきくなーれ♪」


私は今土に水をやっている

その土には種が埋まっているのだ

なんの種かって?それはヒ・ミ・ツ。



遡る事3日か前・・・


「え、食べ物が売ってないんですか?」

「売る所か自分で食う分さえ大変だよ・・・」


パン屋のおじさんが嘆いていた

どうやらこの街は現在食糧難らしく

食物も碌に育たないんだとか・・・


「私に任せて下さい!」

「え?」


驚くパン屋さん、ふふふ私には

不思議なアイテム屋さんが付いているのだ

食べ物位・・・



売ってない?!



「でも種ならありますよ」


「種かぁ・・・」


種から育てるのは時間もかかるし、

なによりあの不毛の大地で育つとも思えない



「でもここの種なら・・・」


いつもの如く何かが起こる予感がしていた私は、

その可能性に賭ける事にした


種を埋めようとした時に、街の人々には止められた

今迄自分等で散々試したのだろう

やれやめとけだの、やれ無駄だよだの助言をくれた

しかし!私の種は特別なのだ!

自信に満ちた私の意思が伝わったのか、

農家の一人が畑と道具を貸してくれた


貰った肥料を蒔いてから土を耕した後

さっそく種を植える私、そして水をやる

周囲の人々は変人を見るような目つきだったがそれもすぐ変わる。


一日目で早速芽がで、二日目でそれが大きくなり、三日目でもう木になった

周囲の人達の反応も変わる

実が生ればこの食糧難から解放されるのだ


四日目ついに実がなった!しかも食べれる!(マウス実験済み)

実というか果実であり、しかもおいしそうでもある


街では宴が始まり、幾つもの果実を使った料理が振舞われた


「よかったですね、パン屋さん。パンは作れないけど・・・」

「それだけじゃないんだぜ嬢ちゃん」

「え?」


なんとこの果実の育成を始めた時から

他の農作物もちゃんと育つ様になったからだ

大麦・小麦もいつもより早く育ったので、

明日にでもパン屋さんを再開できるらしい


「いやーよかったよかった」

「あんたは街の恩人だぜ!」


次々と称賛を受ける私

嬉しいけどこういうのは苦手な私は

宴に参加はせず、こっしょり街を後にした








俺は冒険者だ

食糧も底を尽きた、次の街で補給せねば

そう思い立ち寄ったこの街、何かがおかしい

料理等生活の跡は見られるのに無人なのだ

それと町外れに生えている奇妙な木

他の作物は枯れているのにこれだけ元気に実を生らしている

まあなんとおいしそうな果実だろう、それに手をやろうとしたその時である


「やめときな、兄ちゃん」

「!?」


突然の声に驚く冒険者

周囲を見渡すが誰もいない


「ここだよ、この木が俺なのさ」

「な、なんだって!?」


「その果実が全ての始まりだ、あの女も魔女に違いねぇ」


果実は最初は自力で成長し、周囲の植物にまで影響を与える

その最初の影響が反映され、成長しきった所を根こそぎ奪うのだ

しかしそれには元となるエネルギーが必要である

それは・・・


「それは、人間さ・・・」

「なっ!?」


果実を食べた人間は果実の肥料にされてしまうのだ

それだけじゃない、その人間は木に取り込まれ

新たな木の一部として永遠に寄生されていくのだ


木の枝が冒険者を四方八方から襲い、覆いつくす


「俺はジャック、パン屋のジャック・・・」


「いや、木のジャックさ」



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