第5話 見える眼鏡


人間は時には見てはいけない物をみてしまう事もある

そう例えば、




「転生・転移前の人の姿とかああああああああああああああ!」




私の前には女性用の防具を身に着ける男性の姿が、

美女に囲まれるみすぼらしいおっさんの姿が、

イケメン剣士がぼさ頭のオタク男子の姿に、

見えてはいけないものが見えていた

そう、このメガネのせいで・・・



時間は数時間前に遡る


とあるモンスターとの戦いの時に眼鏡を落としてしまった

そして勢いで踏んでしまったのである


私の視力は両目0.8位でギリギリメガネがいるかいらないか

レベルの物である

だから眼鏡がなくても困る訳ではないのだが・・・


「あった方がいいよね・・・」


という事で例のアイテム屋さんで”とある眼鏡”を頂いた

見た目は普通の女性用の黒ぶち眼鏡である

あのお店の物だから不思議な能力があるに違いない


なんと

なんと

なんと!


レンズの調整もしてないのに度がぴったりなのだ!

強すぎもせず弱すぎもせず、まさにオーダーメイド!

店員さんの言っていた「見える眼鏡」というのはそういう事なのね!

これは久々に良い「不思議」だ

私はうきうき気分でその眼鏡をかけて近くの村に出向いた


「ムーラ村へようこそ」


街の入り口で村人の人が挨拶してくれた

(男性にしては女性みたいに高い声だと思った)

その時に気付くべきだったのだ、この違和感に・・・



「仲間を雇いたいって?」

「はい、できれば全員女性で・・・」


いつまでも最強の剣と盾に頼っている訳にもいかない

(このカウンターの減り具合も気になるし)

それにいくら最強と言っても使い手が私では無価値なのだ

だから私は頼りになる護衛を雇う事にした

勿論希望は全員女性だ(そういうお年頃なんです)


「嬢ちゃんは運がいい、最近は女性の冒険者が多いんだよ」

「へーそーなんですかー」


と酒場のマスターが目をやった先に目をやる

しかし・・・


「(全員おっさんじゃん)」

「どうだい綺麗所ばかりだろ?腕も一流揃いだぜ!」


どうやら危ない酒場に来てしまったらしい

私は酒場のマスターがよそ見をしてる間に店から抜け出した


時は場所が変わり村のはずれ・・・


がし!


私はぼーとしていたのか誰かにぶつかってしまった

思わず眼鏡を落とす


「あ、すみませ・・・」

「こるぁ!ぶつかっといてそれですますつもりかいな!」


すごーく怒ってる相手

現代にもいたな、こういう人・・・と思いながらも私は無視して立ち去ろうとする

しかし


「おうおう!無視するたぁいい度胸やのう!」


息巻くチンピラ、しかし私には必殺技があるのだ


「きゃーーーーーー!!!おまわりさーん!痴漢でーす!」

「!?」


突然の大声にうろたえる男

ふふふ、男卑女尊のこの時代、これで全ては解決するのだ

が、だがしかし


「ここ別の時代だったー!?」


今は異世界にいる事を思い出し、男よりうろたえる

しかも村はずれなのでそもそも近くに人はいない

そもそも小さなこの村には警護の兵士等いないのだ


「けっ、びびらせやがって!」


シャキン!


男がナイフを取り出す

私も応戦しようとするが、腰が抜けて動けない

最強の剣と盾を取り出す前に距離を詰められてしまう

その時である!


「やめたまえ!」


声の主はイケメンの騎士様だ

チンピラとの戦闘シーンは省略される程あっけなく、

そしてチンピラは逃げて行った


「ありがとうございます!」

「はっはっは、大したことじゃないですよ」


なんて謙虚なナイト様なんでしょう

そのご尊顔をもっとはっきり見る為に私は眼鏡を探す


「めがねめがねっと・・・」

「お探しの物はこれかな?」


はいっ!と嬉しそうに返事をする私

いやー、こんなイケメンに助けられるなんてラッキーだなぁと

喜々陽々とテンション上がってた私は眼鏡をかける

とそこにはみすぼらしぃサラリーマン姿のおっさんがいた



「(えーと・・・どちら様?)」


思わず声を失う私、思わず眼鏡をはずして目をこする

そこには先程助けてくれたイケメン騎士様がいた

私は再び眼鏡をかけるとそこには冴えないおっさんがいた


「(嫌な予感がする・・・)」


「あなた、異世界転移、または転生された方じゃないですか?」

「(ギクッ)」


図星だったのか体を強張らせる騎士様

私は続けて質問をする


「しかも禿げてて赤いネクタイでグレーのスーツ着てません?」

「なぜそれを!」


どうやらそれは現代での最後の姿らしい

酔って帰ろうとした所に車にひかれてしまい死亡

その後転生する際に神様にお願いできたらしく、

最初から青年状態で転生&イケメンの騎士様にして貰い、ここまで旅してきたとか

つまりこの見える眼鏡の見えるというのは「転生・転移前の姿が見える眼鏡」らしい

どうりで酒場の女性冒険者も男だらけだったわけだ

しかも現代ぽい姿だったし、あの集中率からして望んで転生・転移したのだろう


キモ・・・思わず言いかけたが言葉を呑む

誰しもイケメンや美女に憧れて強い存在になりたいだろうし、

チャンスさえあれば誰もがそうするだろう、でも女体化希望はやっぱキモい

ゲームで女性主人公選ぶのとは訳が違うんだぞ男性諸君・・・


と眼鏡と見えた物に関してはこの辺にしておこう

どうやらこの騎士様は息子さんを探してるらしい


「息子さんも異世界転移とか転生されたんですか?」

「ええ、どうやらそのようなんです」


自分に甘いマスク(イケ面の顔)と優れた身体能力を与えてくれた神様によると

息子さんが先に転生していたらしく、同じ様に能力(高い魔力)を与えていたらしい

そして息子さんは赤ん坊からのやり直しの転生を望んだとか


「異世界でも息子さん探しなんて、息子さん思いなんですね」

「いや、違うんですよ・・・」


「わしはあいつが転生した後、生前の力と魔力を悪用して迷惑かけてないか心配で・・・」


どうやら息子さんは生前から相当やんちゃだったらしく、小さい頃から悪行三昧、

実家では無職のごくつぶしでついに勘当、その後交通事故か何かで死んだらしい

友人知人もおらず、親族にさえ恨まれていて、葬式にも殆ど人がこなかったとか

いわゆるゴミ、カス、クズである


「最低ですね・・・」

「でしょう?だから何かやらかす前に止めないといかんのです」


親って大変だなぁと思いつつ、

私は騎士様の息子さん探しを手伝う事にした


「このメガネがあればすぐに見つかりますよ!」

「おおそれはありがたい!」


どうやら目星はついてるらしい

最近子供がリーダーを務める盗賊団が暴れており、

子供ながら高威力の魔術を操るとかなんとか、知力も年の割に高いとの事だ

街や村を襲っては食糧やお金、女性等を略奪し、その後は焼き払っていくとの事

まさに外道である


「その盗賊団が今日ここを襲うと情報を得たんですよ」

「それで待ち伏せしてた訳ですね」


私は騎士様と計画を立てて夜を待った・・・


そして突如絹を割く様な女性の悲鳴が響く!

「ぐへへへ、酒場の冒険者が美人揃いたあいい店じゃねえか!」

どうやら村にいた冒険者全員が捕らえられたらしい

いくら手練れでもチート魔力には叶わなかったのだろう

私は騎士様に眼鏡を渡すとさっそく少年を見てもらう

騎士様の目付きが変わる


「マサヒコ!やめなさい!」

「何故その名を!あんたは・・・」


「けっ、糞親父が!異世界まで追ってきやがって!」

「お前が悪行を続けるからだろう!」


「うるせぇ!」


少年が杖を振るうと赤い閃光が岸様に降りかかる

私は二人の間に割って入ると閃光を最強の盾で防いだ


「なっ!」


突然の乱入者に驚く少年、そしてその隙を騎士様が突いた


「すまん、マサヒコ・・・!」


流石に殺す事に抵抗があったのか、岸様は刃で無い剣の腹の部分で少年を殴打した


「うっ・・・」


リーダー格の少年が気絶したのをきっかけに、解放された冒険者たちと騎士様達により

残った盗賊団も鎮圧された

そして・・・


柱にくくりつけ身動きが取れない少年


「くそっ!解きやがれ!」

「まだ悪態ついてるのね、呆れた子」


私はやれやれと少年を軽く小突くと、哀れみに満ちた瞳の騎士様に向き合った


「糞親父、早く助けろよ!」

「二度目の人生なのにお前はどうしてこうなってしまったんだ・・・」


しかし憐れむ騎士様の言葉を無視し少年は開き直った


「けっ、!ここじゃ俺は大魔術師様で神童とまで言われてんだ!部下だって沢山いる!あの頃とは違う!」

「それは与えられた力と生前の記憶のおかげだろう、馬鹿者が・・・」


狼狽える少年。確かに少年は努力のどの字もしていないのだ

生前のゴミ屑な時と本質的な所は何も成長していない


「でででもそれは親父だって・・・・!」

「お前に人生台無しにされたんだ、これ位はいいだろう」


「それにワシはこの力を悪用した事は一度も無い」

「くっ!」


「さあ、もう疲れたろう、マサヒコ・・・」

「え」

「き、騎士様!?」


私が止める間もなく騎士様はその剣で少年の喉元を切り裂いた

血がぴゅーぴゅーと傷口から噴き出している


「眼鏡ありがとうございました、お嬢さん」


声が出ない私に眼鏡を渡すと騎士様は去っていった

騎士様は涙一つ流していなかったが、その背中で泣いていた



【カウンター】剣「750」盾「400」



私は受け取った眼鏡をその辺に捨てた

知らぬが仏、見ぬこと清って事だ

モンスターに転生した人とかいたら戦えないもんね

もし相手に人を襲う躊躇が無ければ一方的にやられてしまうからだ

まあ世の中には知らない方が良い事もあるって事で!



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