第4話 魂をこめるカメラ

突然だが私の芸術センスは0である

甲乙丙で言えば丙、5段階評価だと1である

絵も彫刻も工作もぜーんぶダメ

つまり絶望的にセンスが無いのだ


そんな私が今いる所は芸術の街「ツイゲージュ」

聞いた話では多くの一流芸術家がこの街出身らしい

私に縁の無いこの街に何故いるかって?

それはただの通り道だからである


その時である


「平民に芸術家を名乗る資格は無い!」


数人の高そうなローブを貴族風の人達が

一人のぼろきれを纏った男をフルボッコにリンチしている

そして


「平民に絵描きの道具は不要だ!」


貴族達がぼろきれの男(以後はボロ男さんと呼ぶことにしよう)を抑え込むと、

ボロ男さんから筆やパレットやら絵描きの道具を取り上げた


「か、返してくれ!」


ボロ男さんが貴族の男達の足にしがみつくが蹴られ返されてしまう

転がるボロ男さん。私は思わず止めに入った。


「やめなさい!よってたかって!」


「何ですかあなた・・・フッ」


男は私の姿を見ると鼻で笑った


「そのみすぼらしい服装、どう見ても平民じゃないか」

「スカートの丈も短すぎる、どこぞの娼婦か何かだろう」


「なっ!」


久々にかちーんと来た私。確かに現代人の服はそういう風に見えるだろうが・・・

しかし最強の剣もこいつらには使えない。

どんなに憎たらしかろうが人は人なのだ。

ならば取る行動は一つしかない


「逃げよ!ボロ男さん!」

「ちょ、待ってくれ!」


私はボロ男さんの手を取ると、人ごみを押しのけてその場を去った

取られた絵描き道具に未練欲しそうに見つめるボロ男さんを無視し、

走る走る、走るったら走る。こう見えても元陸上部だったりするのだ。


「はぁはぁ・・・逃げ切った?」

「ああ、僕の絵描き道具が・・・コンテストが・・・」


逃げ切ったのにうなだれて四つん這いになるボロ男さん


「どうしたの?助かったっていうのに」

「絵描き道具を失った僕に価値なんかない・・・」


こちらの声は届いてない様子。

どうやら絵描きセットを失った事が余程ショックだったようだ

ボロ男さんはコンテストがどうだとブツブツ言っている


「ボロ男さん、コンテストってなんなの?」

「コンテストと言えば絵画コンクールに決まっているだろう」


落胆しつつ応えるボロ男さん

どうやらそのコンテストで優勝すれば賞金が手に入る上、

一流の芸術アカデミーへの推薦状が貰えるらしい

いわば一流芸術家への特急切符だ


私はボロ男さんの家もといアトリエに案内された

アトリエと言っても廃墟も当然のボロ小屋だが・・・


「道具もモデルもいない、もうおしまいだ・・・」

「モデルならここにいるじゃない!」


私を描けと言わんばかりに胸を張る私

こう見えてもスタイルには若干の自信があるのだ

しかし・・・


「その服装ではちょっと・・・」


貴族をモデルにするコンテストでは貴族は当然ドレスを着ている

私が今着てる様な現代の普段着はアウトオブ眼中(論外)なのだ


「それくらい想像で書けばいいじゃない」

「しかし道具が・・・」

「道具なら私が用意してくるわよ!」


あのいつもの店なら目当ての物がいつも手に入る

今回だって・・・!


「カ、カメラ・・・?」


しかもただのカメラではない、その場で現像できるポロライドカメラという奴だ

しかもかなり大きいサイズ


「あの~、欲しいのは絵描きの道具なんですけど」


筆とか絵具とかそういうのを期待していたのだがアテがはずれたか。


「絵を書くよりカメラを撮る方が早いし楽でしょう?」


とニコニコ顔で断言する店員さん

現代のカメラマン達が聞いたらブチ切れそうな発言であるが、

それはとりあえず置いておく

絵描きのセンスのある人が撮ればそれなりの物は撮れるだろうし、

なにより写真の存在を知らないこの世界の人にはかなり精巧な絵に見えるだろう

この大きさなら小さめの絵画と言えば誤魔化せるサイズだしね

と考えてる内に店員も店も消えていた(いつもの事だけど)


そしてボロ男さんのアトリエへの帰り道・・・


「やあ平民のお嬢さん」

「あ、モブ貴族ABCだ」

「誰がモブ貴族だ!というかひとまとめにするな!」

「はいはい、何の用?急いでるんだけど」


そこで私に電流走る。美少女と複数の男来たらアレである


「な、何する気?私に酷い事するつもりでしょう!」

「何を言ってるんだこの女は」

「貴様など写生のモデルにもならんわ」


「しゃ、しゃせいですって!?いやらしい!」

突然の卑猥発言に思わず私は顔を赤くした


「「「????」」」

頭にはてなを浮かべてるモブ貴族ABC


「今よ!」


カシャッ!


私はカメラのフラッシュを使い連中の目を晦ました


「うおっまぶし!」


モブ貴族全員が目を手で抑えてる間、私は逃げ出した

その時撮れた写真を地面に忘れて・・・




「はい、これ使って」

私はボロ男さんの廃墟もといアトリエに付くとさっそくカメラを渡した


「使い方はこう」

モデルにしていたであろうボロボロの花瓶と一輪の薔薇を撮影してみせる


カシャッ、ウィーン


撮影と同時に写真が現像される

それを見た男は驚いた


「こ、こんな精巧な絵を一瞬で書き上げるなんて!なんてカラクリだ!」

「ふふふん、どうですか」


まるで自分の事の様に胸を張る私


「これさえあればコンクールに優勝できる!」

「じゃあ綺麗に撮ってね」


ポーズをとる私・・・を無視してアトリエから出でいったボロ男さん

どうやら私以外にモデルにしたい人がいるらしい


「急に呼び出してどうしたの?」

「会いたかったよアンナ」


ボロ男さんを追って物陰に隠れる私

アンナと呼ばれた女性がどうやらモデル候補らしい

悔しいが私の何倍も美人だ


「君にモデルになって欲しいんだ」

「それは・・・無理よ、時間も無いし」


戸惑いながらお断りするアンナさん

あれだけの美人なら当然他の画家のモデルもやるだろうし、

絵画のモデルというのは何時間も拘束されるのだ

ボロ男さんのモデルまで引き受ける余裕は無いだろう

というか貴族とボロ男さんでは身分が違い過ぎて無理だろう

ここはまだそういう時代なのだ


「でも二人ともいい雰囲気なのよね・・・」


二人の間に漂う甘い空気に若干火照る私

多分あの二人は恋仲なんだろう

まるで異世界版ロミオとジュリエットだ


「大丈夫、一瞬で終わるよ」


カシャッ、ウィーン


ボロ男さんは一瞬の隙を逃さず自分に見惚れているアンナさんの写真を撮った

題するなら【恋する乙女】だろうか

まるで魂がこもった素晴らしい作品だ


「さあ、これでコンクールに出れるぞ!」

「え、もうできたの!?」


完璧なタイミングで撮影された写真に息を呑むアンナさん


「ふーん、なるへそなるへそ」


コンクール優勝に必死な理由が私にようやく理解できた

平民でも一流の芸術家となればこの街では市民権を得られるのだ

当然貴族との恋も許される様になる

これはアンナさんの為でもあるのだ



そしてコンクール当日


何故か優勝候補だったモブ貴族ABCは体調不良で棄権

ボロ男さんの写真が素晴らしい事もあり無事優勝した

その後ボロ男さんとアンナさんは無事結ばれたらしい、よかったよかった


ボロ男さんには元々絵描きの才能があったらしく、

カメラなんてなくても素晴らしい絵を書くことができた

これでボロ男さんも一流の芸術家として活躍していく事だろう

そしてアンナさんとの恋も


「じゃーね、芸術の街!」


カシャッ、ウィーン


最後に街を見渡せる丘から街全体の写真を撮る私

嬉しそうに手を振るボロ男さんとアンナさん

うーん、感動的!

そうして私は芸術の街「ツイゲージュ」を後にした









「くそっ逃げられたか!」

「なんだあの光は!」

「くっ・・・目が!」


モブ貴族ABCは少女の放ったカメラの光に目を晦ませていた


「「「」か、体の力が抜けていく・・・」」」


まるで魂が抜かれたかの様に倒れる3人、

被害者は3人だけではなかった

花瓶の花もアンナもボロ男も最後に撮られた街の人々も

文字通り”魂の込められた写真”に収められた人も動植物も、皆生気を失っていた


以後芸術の街「ツイゲージュ」はゴーストタウン、

”死の街”として人々に記憶される事となる・・・

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