第3話 変化の杖

「うーん、やっぱり辛いなぁ」


セーブポイントで実質不死の存在となった私だが

痛い思いをするのに変わりは無い

今安全に倒せるのはスライム系位だ


「敵が全員スライムだったら楽なのになぁ・・・」


そう思った矢先、突如”あの店”が現れた

そう、あの不思議なアイテム屋さんだ


これこれしかじかうまうまかくかく・・・


私はいつもの女性店員に相談すると、

倉庫に入り、杖の様な棒きれを持って戻って来た


「これ等は如何でしょう?」


そう言ってカウンターに置いた杖を思わず手に取る私


「じゃあわたくしはこれで・・・」

いつものこれは何だと質問する前に、

いつもの定時退社で消える店員と店・・・まあそうなるか

もう慣れた私は杖を片手にいつもの荒野を散策する

そして散策を続けていると見慣れぬ人影が一人


「おい嬢ちゃん!有り金全部よこしな!」


がに股立ちで短剣を向けて来たのはモンスターでなく人間だった

俗に言う盗賊という奴だ

本来ならモンスターの方が強いのに、今は人間の方が怖い私

だって現代で知らない人にこれやられたら絶対怖いよ・・・


無言でたじろぐ私、そして徐々に距離を詰めて来る盗賊の男


「ぐへへ、もう逃げられんぞ」


後一歩で手を伸ばせば届く距離までに追い詰められた私

そこで私はつい持っていた杖を彼に向けた


「こないでっ!」


杖の先端が輝くと、そこから眩い光が放たれる

そしてその光は盗賊の男に命中した


うねうねうね


ぐにょぐにょ


なんと男はスライムになってしまったのだ!

これなら倒せ・・・


「でも元は人なんだよね・・・」


さすがに人を倒すのは抵抗ある

なので私は逃げる事にした

スライムの速度では追いつけないので100%確実に逃げられた。

じゃあ旅を続けるか・・・でもその前に


「えいっ!」


私は元盗賊のスライムから十分距離を取った後、再度杖を振った

杖の光に触れるとスライムは元の男に戻った

このまま戻れなかったらどうなるのだろうと心配していた私は安堵した


「じゃあ逃げよ」


男に気付かれる前に私はその場からいそいそと離れた

その後色々試して分かったが、二度杖を使われるか、3時間経つか、

いずれかの条件を満たすと元に戻るらしい

人に使う事を考えると戻し方は知っておきたかった


その後の私は杖無双だった、ゴブリンもオークもハーピーも野盗も大男も

あれだけ手強かったリザードマンさえもスライムになってしまえば一撃だ


「あっ」


使い過ぎたのか幾ら振っても光が出なくなった杖

どうしよう・・・用済みの杖を捨てる私

次なる強くなる方法を求め私はあの店を探しさ迷った







「腹減ったよ兄貴ぃ・・・」

「言うんじゃねぇ、余計腹が減るじゃねぇか」

「あいたっ!」

兄貴分の男に小突かれる子分らしき男

この二人は盗賊のコンビなのだが、道に迷った挙句、食料も水もつきてしまったのだ。


「モンスターでいいから食いてえなぁ・・・」

子分の男が呟いたその時である

「おい!スライムがいたぞ!」

それは丁度空腹で力が出ない今でも倒せる雑魚モンスターだった



「いやー食った食った!」

スライムのドロドロステーキ、スライムと野草のサラダ、デザートにスライムのゼリー...

スライム尽くしのフルコースを味わった二人はもう満腹だった

そこへまたスライムが一匹


うにょうにょ


「腹ごなしに一狩りしますか兄貴♪」

「おうっ!」


二人が短剣をスライムに突き刺そうとしたその時である


そのスライムが輝くと


なんと


なんと


スライムが人に変化・・・いや、そんな能力はスライムにはない

つまり人に戻ったのだ

そして戻った男が一言


「や、やめてくれ!俺は人間だ!」


盗賊二人は一瞬頭が真っ白になると、先程食べたスライム達を思い出し、

そして青ざめた


「「食っちまったよ・・・」」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る