血肉を通わせた小説とは
夢の中で見知らぬ女性が言った。
「小説に魅力を与えるためには肉付けしなくてはならないわ」
その女性はよく知った人だったのかもしれない。私の家に当たり前のように一緒にいた。
肉付け? できるものなら、そうしたいものだと思う。しかし、私にはそんな才能はないのだ。
「簡単なことよ。生命を与えるの」
淡々とした口調で、けれど色気のあるねっとりとした声質でそう語る。
「文章に血肉を通わせるの。言葉の一つ一つに細胞を持たせるのよ」
彼女の言葉は妙に説得力のあるものだった。
言われた通りにやってみるか。そんな気になってきた。
命を与えていくことにした。
私の小説は章ごとに10歳前後の少年少女になっていく。私立小学校の制服ででもあるのか、彼らは一様に白いシャツと紺色のブレザーとズボン(少女はスカート)、そしてネクタイをしている。
家中が子供たちであふれ返っていく。
その様子を見て、私はニヤリと笑った。これだけ重厚な作品であれば人々の目に留まることだろう。それは会心の笑みだった。
しかし、そう思ったのはごくわずかの時間だった。
彼らはそのうち消えるのだろうか。それとも、このまま彼らの人生を生きていくのか。
取り返しのつかないことをしてしまったと気づいたときはもう遅かった。
いつの間にか、女は姿を消していた。
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