第2話・先生✕引き籠もり、その壱
「教師と生徒の合わせってエロくない?」
「何だいきなり。と言いたいところですが、分かる」
海中さんと僕こと山端の会話は、なんやかんやと続いていた。
あれ以来、海中さんは僕の日記を読んでは来て読んでは来て。
意外とハマってるのだろうか。
僕はちょくちょくタメ口を使えるようになり始めた。
まだ敬語の部分はあるけれど、明らかに距離が縮まってしまっている。
最近では海中さんが推しのカップルを言ってくるようになるほど。
まだ恥をかくという事を理解していなかった保育園の頃から、女子との関わりというものが少なかった僕には、慣れない感覚だ。
で。
今日の議題はズバリ。
教師と生徒の恋。
誰もが通る(かもしれない)道だ。
教え子と結ばれることは教師にとって禁断の世界。
誰かと結ばれることは、特定の一人のより深いところに踏み込むということ。
ましてや、多くの子供達の人生を預かる教師が、だ。
一人の生徒と愛し合えば、他の生徒は疎かになってしまう。
場合によっては、差別意識を感じさせてしまうかもしれない。
故に、禁断とされ。
故に、誰もが惹き込まれる世界なのだ。
人は良くも悪くも、逆境に惹かれる。
世間から後ろ指を差されていようと、白い目を向けられていようと、それでも止められない愛の美しさたるや。
理性では駄目だと分かっているから、一瞬の間だけ、本能のままに愛し合うしかない。
本能に身を任せた愛は、人間ならば当然憧れる(はずだ)。
禁断でこそあるが、創作物で昔から根強い人気を獲得し続ける理由は、こういった背景があるのだろう。
それがまさか現実に、しかも我が校で起こってるとは、夢にも思うまい。
起こってるんだなぁ。
誰も気付いていないが、僕らだけは気付いている、禁断の愛。
舞台は保健室。
引き籠もり高校生男子と、保健室の先生。二人が紡いだ繋がりは、やがて止めることのできない愛に変わる!
僕の脳内で、尊センサーがビンビンに反応しておりますよ!
「保健室登校の男子って、ウチのクラスの奴だよね?」
「そう。引き籠もりで、学校に来ても滅多に姿を見ることが無い」
「ソイツと保健室の先生が付き合ってるってこと?」
「厳密には付き合ってはなさそうですな。ただ、お互い特別な感情があって、後ひと押しでもあればお互い激しく愛し合いそうって感じかなって」
その光景を目撃したのは、保健室に献血の申し込みをしに行った時のこと。
引き籠もりだというクラスメイトの姿がそこにあった。
滅多に会わないが、何度か見たことはあるので姿は知っていた。
とは言え、話したことは無いので、軽く会釈する程度なのだが。
問題はその隣にいる人物。
僕が申し込み書類を渡そうとしていた人物。
そう、保健室の先生だ。
その先生が、引き籠もり生徒と、やけに近い距離で座っていた。
否、僕は見逃さなかった。
先生は恐らく、引き籠もりに抱き着いていた。
それで、僕が来たときに離れたのだ。
怪しいなぁ……。
この一軒以来、二人に注目するようになった。
「アンタ、確信も無いのにあの二人観察してんの? しかも、二人がいるのって基本的に保健室でしょ? あの閉鎖された空間でどうやって観察するのさ」
「フッフッフッ。確かに、保健室なら観察は難しいけど……」
海中さんに持っていかれたのとは別のノートを取り出して渡す。
「言ったでしょう? あと一押しでって。そこまで行くと、もうあの空間だけでは収められないのですよ」
特にあの二人は。
・観察開始
『さぁ、あの二人はどこで僕に見つかったのかから話していきますよ』
『山端、この方式結構面倒じゃない?』
『まぁ、これが一番やりやすいですし』
あれは夏という夏の日。
滅茶苦茶暑かった。
実は校舎裏には夕方は一切日が差さない場所があり、僕はそこで涼んでいたのです。
で、その場所ってのが窓の下なのです。
何処の窓かって言うと、例の保健室の窓ですよ。
そう。いざ帰ろうと立ち上がったその瞬間に、僕は目撃してしまったのですよ。
「ん……ッ」
「ちょっ、先せ……ングッ」
『二人の接吻の瞬間をォ!!!』
『ちょっと待てぇぇぃ!!』
次回に続く
オタク君「尊」観察日記 下り坂 @hikageniwatori
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