第79話  生徒会長の思惑②

「では、副会長としてよろしくお願い致します。」




ヌッっと会長が手を差し伸べてきた。





「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!

俺はそんな事を了解した覚えはない!!...ですけど...。」

危ない。

つい、ため口になってしまった。





「?

言ってらっしゃる意味が分からないのですが?」

本当に不思議そうな顔で首を傾げてくる。






「いやいや、だから俺は副会長なんてしませんから!!」

当たり前だろ?

副会長なんて、全校集会とかで演説したり、ポスト会長だろ?




俺は、この高校では静寂を求めてやってきているんだ。

なのに、なぜわざわざ?




嫌だ。

無理。

学級委員でさえ、渋々やっているのだから...。







「それより、この時期に副会長を決めるのはおかしいですよね?」

今までの副会長はいったいどこに行ったのですか?

生徒会選挙とか投票で決まるものなんだろ?



会長権限で指名とか聞いたこと無いから!


噂じゃ、その生徒会選挙、満場一致で会長は彼女になったらしいけど。






「一身上の都合で辞退されました。」

おい。

何だよそれ。

全然中身の無い理由だな。




「急でしたので、代わりとなる副会長は私に決定権が下りたのです。

ですので、糸谷くん。

副会長として学校の、私の支えとなって下さい。」





「無理です。

いきなり言われてもやりません。」

俺は再度、断りを入れる。






「そうですか。

今、生徒会の仕事を私がメインで処理していて、とても大変なのです。

こんなにお願いしてもやっていただけませんか?」




更に進化する上目遣いと共に、

会長は、制服のリボンを外す。

ボタンを開け、甘い誘惑顔で胸元を近づけようとしてきた。







ちょ。

チラリと白い下着が見える。

襟首から覗く微かな鎖骨。

その下には、制服の上の盛り上がりから察するに.............。




いやいや。

こんな事で誘惑されてどうする。

俺には心に秘めた女がいるんだ。




「.............。

どんなにお願いされても無理です。

他を当たってください。」

あえて、素っ気なく言った。




俺は、今、どんな顔をしているのか.............。

一応、真顔のつもりだが、あまり自信はなかった。








「そうですか。

では、屋上の無断使用の件。

これからの教訓として、校内に名前と写真を知らしめる事にいたします。」



会長は、さも残念と言った風にチラッとこちらを見てきた。


「うっ。」



名前と写真を全校生徒にみられるだと?

んなこと、あってたまるか!






「私的には、副会長になっていただいたほうが、嬉しいのですが。」

残念です。

糸谷くんは、頼めばなんでも言うことを聞く人間であると聞いていたので.............。













だぁーーーーーーーー!!







俺は、頭を抱えたくなった。

いや、もう、抱えている。








「.............。やります。副会長やります。」

最後には、俺は負けていた。










契約書と書かれた紙に、サインをする。

「会長。

何故、他の2年生ではなく、1年のただ学級委員をしていた俺を副会長にしたかったのですか?」

他に、適任がいたのでは?





「もう、私と糸谷くんの仲です。

会長と言う堅苦しい呼び方は止めましょう。

私のことは、紫音で構いませんよ。」






「.............。纐纈さ...」


「紫音。」

会長は、間髪入れず、訂正してきた。



「.............。紫音さん。

何故、俺は、副会長をやることになったのですか?」






「糸谷くんを副会長に起用したかった理由ですか?

それは、簡単なことです。」




「簡単なこと?」




「糸谷くんに興味を持ったからです。」



そう言うと、また深みのある顔で笑った。







「副会長の人選を適確に行うべく、全校生徒のデータベースを全て拝見致しました。





そこから、何人かをピックアップし、最終審査、副会長の適性検査を内密に行っていたのです。



当然、これまでの、糸谷くんの校内での様子。

見させていただきました。




新入生テスト、最高点で学年トップ。

それなのに、自分の名前を張り出すなと。



体力テストの結果も面白かったです。

シャトルラン、立ち幅跳び、全ての総合点は、Bランクの3点。


毎年、全国平均は3点前後なので人並みですよね。



今年は、シャトルランが1点、立ち幅跳び5点、上体起こし1点、握力5点、ハンドボール投げ1点、反復横飛び5点。

総合点は3点で、B判定でした。



ただ、面白いものを見つけました。」



そういって、彼女は一枚の紙を取り出した。





俺の中学時代の体力テストの結果表。


「中学の成績って、高校入試のために全てこちらに内申点として送られてくるので、把握可能なのです。

凄いですね。

中学から4年間、体力テストはずっとBですか。





ただ、中学ではシャトルランが5点で、立ち幅跳び1点、ハンドボール投げ5点だったりしていますね。

おかしいですね。

これは去年のデータですが、一年間で、1点だったのがいきなり5点になったり、5点が1点になることってありますか?








この前の中間テスト。

あなたの解答用紙と問題冊子、望月先生に見せてもらいました。

問題冊子には満点の解答過程を書きながら、何故か解答用紙には間違った答えを記述していました。

それも、うっかりのミスでは誤魔化せないくらいの量。」








モッチー先生。

俺のテスト、勝手に見せるなよな。

プライバシーだろ?

俺は、日本のプライバシー管理に文句を吐く。






「これらの行動、わざと手を抜いているとしか思えません。



糸谷くん、本来の実力はこの程度ではありませんね?



何をそんなに隠したいのかは分かりませんが、私はあなたに興味を持ちました。





貴方の本当の力を知りたい。

貴方の行動の意味が知りたい。


糸谷くん、貴方のことが気になって仕方ありませんでした。


だから、ずっと貴方を感じられるよう、傍に置いておきたいと思ったのです。」





丁度良い副会長ポジションが空席でした。






会長…。

紫音さんは、そう言った。





そして、俺は静かな場所を得る引き換えに、会長のお気に入りとなったのだった。





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