第70話 俺にサプライズ?
ふぁーぁ。
あふぁ。
眠い。
俺はあくびを噛み殺す。
伊世早グループの海外支店の売上が予想以上に伸びてしまった。
まぁ、嬉しい悲鳴と言えばそれまでなのだが.............。
そのお陰で、今年のGWは、経営方針の大幅な見直しと対応に追われてしまった。
少しでも伊世早グループのおこぼれを貰おうと、各業界がパーティーだの会談だの主催してくれる始末。
二代目まで、闇の取引をしていたのが嘘みたいに、クリーンな会社になっている。
おおかたの仕事に終止符を打てたのは、GW最終日の明朝だった。
GWラストといっても、あと18時間ほどだが.............、ゆっくりしよう。
そう思って、ベッドに潜ったのだが.............。
■■■■■
「おーい!!メガネくーん!!」
俺、糸谷早瀬はパーカーにジーパン姿で大通りを歩く。
そう。
ここは、都内の某水族館の前である。
そして、俺は受け付け付近でピョンピョンと飛びはね、周囲の注目を浴びてしまっている集団に静かに近づいた。
「やあ、やあ。
メガネ君、遅かったじゃないか。」
女の子を待たすとは.............。
そう言って、俺の鼻先を指でつっついてくる。
相変わらずの距離の近さだが、
学校の時より、高めの位置で結ばれている仕田原理子の髪は、いつもよりユサユサ度が増している。
「糸谷くん。お久しぶりです。」
学校ぶりですね。
肩あき×パスフリの可憐なお嬢様も登場し、兄の心は激しさを極める。
見えそうで見えない、ふわふわ透けそでトップスは、もう色んな意味で死ねる。
俺の妹は、どうしてこうも度ストライクな服装を選んでくれるのだろう.............。
「.............。おう。」
「糸谷はん。
女子にモテモテやないですか....。」
ここにいないはずの佐々木の幻聴が聞こえる。
「青山くんもこられたら良かったですね。」
「サッカー部、練習中試合なんだってさ。」
「桜もさー。もう、皆、忙しすぎでしょ。」
「佐々木くんも、用事があるとかで、チケットだけくれるしー.............。」
もう!と、彼女は少し拗ねて見せる。
「ですが、皆さん行きたがっていましたね。」
彼女たちだけで会話が弾む。
俺はここに必要な存在なのだろうか。
「えっと、今日はどうして、水族館の前に?」
呼び出された意味が分からず、たまらず聞く。
「水族館に集合って言ったら、水族館に行くしかないでしょー?」
メガネ君、面白いな~。
「え?」
まぁ、そうだよな。
「佐々木くんが、チケットをくれたんだよ。」
ほら。
仕田原理子はトランプのように、入場券を見せた。
有効期限が今日までだったらしい。
仕田原理子のように明るい奴なら、俺以外の女子を誘ってみたほうが良かったのではないか?と、つい考えてしまう。
じゃ、揃ったし、出発しますか。
仕田原理子は、いつものように元気に、先陣をきっていった。
「水族館ー!」
「ま、待って下さい!」
俺は、2人の後ろを静についていく。
はぁ。
つーか、あのメールどういう意味だったんだ?
急いで駆けつけたのにさ.............。
水族館に行くと伝えれば、絶対に断ると、嘘をつかれたのだろうか.............。
人を騙す事はよくあるが、こんな簡単な小細工に引っ掛かったのか?
そー言えばだけど、俺、彼女にアドレスを教えた事があっただろうか.............。
「メガネくーん!遅いよ!」
受付の前で催促される。
「あ、ああ。」
俺は、何も気にしないで、この女子2人に振り回されてやろうと、足を動かした。
ドン!
「あ、すいません。」
深く帽子を被った女性にぶつかってしまった。
やっぱ、メガネ邪魔だな。
視界が狭い。
俺は小さく、謝って、彼女たちの後ろを追いかけた。
メール、一件。
ヤッホー!
メガネ君、GW最終日、楽しんでる?
今日、相談したい事があるんだ。
暇だったら、水族館前に来てほしい。
あ、暇だったらって無し!絶対!
待ってるね。
仕田原理子。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます