第67話 伊世早美優と買い物へ③
「鳩谷さん、今日はありがとうございました。」
お陰様で、良いプレゼントが買えました。
伊世早美優は、ラッピングされた袋が入った紙袋を大切に抱えながら振り向いた。
自然な笑顔。
さすがはお嬢様。
くぅーーー!!
お兄様とか言われてみてー!
「良かったです。では、そろそろ帰りますか?」
もうすぐ3時だ。
夕方になると、さらに人が増えてくるだろう。
俺的に、人でごった返す街に長居はしたくない。
「はい。」
俺達は、ゆっくりと帰路についた。
「うわ。
見て!あの人、紳士とかかな?
横に居るのお嬢様っぽい。」
「マジ、カッコよ。」
この時、鳩谷の姿を見て、一部の女性が発狂していたのは知るよしもなかった。
「鳩谷さん、今日はありがとうございました。」
俺は、彼女を屋敷まで送り届けた。
今日は、このまま帰りますね。と、寂しそうに眉を伏せる彼女に伝えた。
「あの...!」
俺の腕が引っ張られる。
気づけば、彼女の胸元に腕が収まっていた。
うっ。いけない。
今のは不可抗力だ。
というか、妹、そう、妹だぞ?
兄の腕が当たっていても問題ない...。
いや、ダメだろ!
内面で狼狽える俺に、彼女は俺の腕を胸元に押し付け、もてあそぶ。
うん。
この場合、彼女から、このプリンの上にスプーンを乗っけたのだ。
俺に何も疚しいことなどない。
そして、彼女はいくらか俺のスプーンをプリンの上で転がすと、
はい!
と、俺の手を放した。
ん?
見ると、カッターシャツの裾に見覚えのない銀色の塊がついている。
「早いですが、鳩谷さんにも誕生日プレゼントです。」
「これは?」
「カフスボタンです。
鳩谷さんはいつも燕尾服やスーツですから、何か身近に使えるものをプレゼントしたくて...。」
俺のカッターシャツの裾には、銀色のカフスボタンがつけられていた。
驚いた。
いつの間に買っていたのだろう。
「ありがとうございます。大切にしますね。」
俺はそう言うと、彼女の屋敷を後にした。
そして、その足であの家に向かう。
約束いていた時間より少し早く着いてしまった。
ん。
鍵がかかってない。
誰かもう帰ってきたのだろうか。
ガチャ。
俺はそう思いながら、ドアを開け.............、パタン。
閉じた。
うん。
これから俺の脳裏で描かれた通りの出来事が起きるとも限らない。
世の中、絶対と断言できることは存在しないしな。
あと、知らないだろ?
俺の目は節穴なんだ。
だから、何も見えないし、何も見ない.............。
ゴクリ。
無理だ。
やはり、俺の眼球は角膜、虹彩、水晶体、網膜が揃っており、脳には欲求が存在しているらしい。
俺は、もう一度、今度はゆっくり、入り口の扉を1cmほど開けた。
その隙間に、片目を押し込む。
フーン♪フフーン♪
鼻歌まじりの声とともに、脱衣場の扉が開く。
濡れた髪がタオルに巻かれ、白装束の鳴神が出てきた。
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